晩夏(2)

文字数 515文字

 真夏は春の数倍も疲労する気がした。エアコンの効いた自席に戻り冷たい飲み物を買いに行った。

 ポケットには先程のメモが入れてある。チャンスがあればいつでも渡せるようにだ。

 自販機のところで課長を見つけた。すかさずメモを渡す。あまり目立つような便箋にはあえてしない。課長が読む時も普通のメモなら自然だ。

 ニコッと笑いながらハイとポケットに入れる。もちろんあたりをうかがってからだ。
 課長が缶ジュースを買ってくれた。

「ありがとうございます。」

 とニッコリする。たったそれだけの事でも疲れが癒される気がした。

 課長は土曜から夏休みを取る事になっていた。以前、課長が苦手だった頃聞いた事がある。

 課長は夏休みにハワイか奥さんの田舎か一年おきに交替で行っているという事だ。今年はハワイに行くらしい。奥さんと・・・

 いいな。羨ましい。課長に

「今年はどこに行くんですか?」

 と聞いた時

「ハワイだよ。」

 と課長は答えてそれ以上何も言わなかった。私も聞かなかった。夏休みの話はお互いのタブーのようなものだった。

 課長がいなかったら心細いけどでも大丈夫。私の事は心配しないでハワイを楽しんで来てっていわなきゃ。

 今日のデートの時にそう言うつもりだった。
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