台風(5)

文字数 360文字

「ねえ?」

 ヒカルの手のグラスの中でカラリと氷が音をたてた。

「苦しくないの?」

 ヒカルはまるでグラスに話しかけてるように言った。私は吸い込まれそうなコバルトブルーのカクテルをじっと見ていた。

 心がどこか遠くへ行ってしまいそうな気がした。

「苦しいよ。」

 私もカクテルに答えるように言った。

 俯いたままでも私に向けられるヒカルの視線を感じていた。

「俺も苦しいよ。」

 ヒカルはぐっとグラスの中身を飲み干した。

「でもミズキが好きだから。」

 そう言った瞬間のヒカルはいつになく真剣で何か軽々しく茶化してはいけないような空気をまとっていた。

「うん。」

 私はただ頷いた。

「ミズキ、すごく苦しくなったら俺のところに来ればいい。いつもそばにいる。俺の前では我慢することない。泣きたければ泣けばいいし笑いたい時には絶対笑わせてあげるから。」
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