追い討ち(7)

文字数 630文字

「ミズキちゃん・・・」

 こんなタイミングで、しかも泣き顔で、よりによって早川さんと再会するなんて気まずい事この上ない。

 早川さんと最後に会ったのは1年前だった。デートのキャンセルが続いてそのまま自然消滅・・・

 でもこの再会はその気まずさも忘れてしまうほどの驚きだった。

「どうして早川さんがいるの?」

 私は何が何だかわからなくて思わずそう言っていた。

「え?仕事だよ。」

 早川さんはちょっと困ったように笑いながら言った。

「ああ、ごめんなさい。どうして早川さんが私の前にいるのかびっくりして・・・」

 私は言った。早川さんはにっこり笑って

「久しぶり。」

 と言った。

「もしかしてずっといた?」

 私は聞いてみた。

「いや、今乗ったよ。ここだと降りる時ちょうどいいから。」

 と早川さんは言った。そう。私もそれでここに乗っていたのだ。そう言っている間に下車駅に着いた。一緒に降りて改札を出た。

「戻ってまだお仕事?」

 私は聞いた。

「と思ったけどやめた。ちょっと飲みに行こうか。」

 早川さんが聞いた。

「うん。」

 私は頷いた。

 1年前、この同じ道を手をつないで歩いた。今は並んで歩いてもその腕を掴めない。出来てしまった距離が哀しかった。

 初めて映画館で早川さんが手を引いてくれた時を思い出す。たったそれだけの事なのに心が躍った。

 あんなに好きだったのに、ずっとずっと触れ合える事を夢見て願いが叶ったのに。

 1年前によく来ていた店。

「ここでいい?」

 早川さんが聞いた。私は黙って頷いた。
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