微風(16)

文字数 730文字

 午前中の外出から戻り同期とランチを済ますとまた急いで席に戻った。午後の外出の準備の短い間にも電話が次々となった。

 入社したての頃は電話を取り相手が原田課長だと自分でもはっきりわかるくらい緊張し声も固くなったものだ。今では軽い冗談も言えるほどになった。

「原田だけど、何かある?」

「東京建設、佐々木様コールバック。電話番号いりますか?」

「わかるからいい。ほかは?」

「日本JVP、イザワ様コールバック。」

「番号はわかるからいい。」

「それから、ええとJLから回答です。」

「それはいいや。帰ってから確認する。ほかは?」

「以上です。」

「了解。じゃあよろしく。」

「はい、お疲れ様です。」

 電話を切るとまたすぐに別の電話だ。

「お電話ありがとうございます。YTトラベル川村でございます。」

「お疲れ、西村です。」

 営業の男性だ。また同じように急ぎの用件がないかの確認だ。私はたまっているコールバックメモを読み上げた。

 電話が終わった。ぐずぐずしているとまた外出に出遅れる。次の電話が鳴り出さないうちに急いで自分も外出した。

 夕方、午後の外出から戻るとすぐに翌日の準備にかかった。それでもいつも気がつけば20時近くなっていた。

 最近では原田課長に怒られる事もほとんどなくなって、むしろほめられるとまではいかないにしろ「よし」と言われる事が増えた。

 課長に「よし」と言ってもらえると手放しで嬉しかった。課長に「よし」と言ってほしくて私は俄然張り切って言い付けられてもいない事まで先回りして出来る事はやるように努めた。

 原田課長の仕事だけでなく他の営業の仕事も率先してやった。そのかいあってほとんどの営業の男性から可愛がってもらえた。

 私はだんだんと忙しいながらもはりあいが出て来た。
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