暗雲(2)

文字数 595文字

 (すっかり忘れてた。)

 そう思いながらダイヤルした。呼び出し音が3回ほど。本人が出ると思っていたのに渡辺の母親が出たのでちょっとびっくりしてしまった。

「夜分遅く申し訳ありません。川村と申します。ヒカルさんはいらっしゃいますか?」

 私は言った。

「はいはい。川村さんね。ヒカルから聞いてます。ちょっと待ってね。ヒカルー!お待ちかねの川村さんよー。」

 (ヒカルから聞いてます?お待ちかねの?なんなの?)

 渡辺が電話に出るまでの十数秒、電話の向こう側の家の雰囲気はちょっと変わってるかも、と思っていた。

「ネエさん!」

「あのさー、だからネエさんはやめて。」

 そのまま切ってやろうかと思った。

「はいはい。もう言わないよ。さっき電話したらママが出たから焦ったよ。」

「ごめん、すっかり忘れてた。」

「ひどいなぁ。ワクワクしながら電話したのに。」

「あなたのママにも話したみたいね。私の事いろいろ。」

「うん。うちの親はちょっと変わってるかもしれないけど別に気にしないで。」

「親だけじゃなくてあなたも変わってる気がするけどね。」

「そうかな?」

「そうだよ。」

「ところでさっきから『あなた』とか俺の事呼んでるけど、それ気に入らないからそっちこそやめてよ。」

「じゃあなんて呼べばいいの?」

「ヒカルとかヒカルくんとかヒカルさんとかヒカル様とかさ。ヒカル様っていいね。」

「なんで私がヒカル様なんて言わなきゃいけないのよ。」
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