ここにもロンリーハート (2)
文字数 1,024文字
「理由? 方法? 聞きたいのは」
「両方」
人の目を見ながら、平気で嘘のつける人だ。
だが、本当のことを言わないともかぎらない。
「叱られた」
意外な答えが返ってきた。
「誰に」
「大殿と小松殿に。ダブルで」
大殿は清盛入道。小松殿は、長兄の重盛卿だ。
たんぽぽの花びらでももてあそぶように、ミランダの指をいじっている。
「なんて叱られたの」
「小松殿には」ふっと笑う。「『義を見てせざるは勇無きなり』って」
「義を――」
「ミランダちゃんが困ってるんだから助けに行ってやれってこと」また指にキスされた。「そう言えばいいのにね。まったくあの人は。あいかわらず歩く格言集、みたいで」
笑いにまぎらそうとして、声がつまってかすれる。
「どうかしたの?」
「替わってくれたの。おれと」
「小松殿が?」
重盛卿らしい。
かつて、父の清盛公が寺社勢力とはげしく対立するのに心を痛めて、
「仏罰は一門の皆ではなく、わたし一人に当ててください」
そう祈って絶食し、みずからの命をちぢめて亡くなってしまったという人だ。
いまは深海にいて、皆の分、ときほぐせない時の糸を独りで巻き取ってくれているということなのか。
「お父さまには何て言われたの? 清盛公には」
きゅうにミランダの手を放し、ヴァレンティンはごろんとうつぶせになった。
「言いたくない」
「え?」
「はずかしいから」顔をおおっている。
こんな子どもっぽい彼は初めて見る。
「はずかしい」とくりかえしている。あんがい、聞いてもらいたいのかもしれない。
「言ってよ」
「言わない」
「あたし耳ふさいでるから」
両手で耳にふたをしてみせると、顔を上げて笑い、ふたたびごろりとあおむけになった。
「ひどいんだよ。
『何が、見るべきほどのことは見つ、だ。おまえはまだなーんにも見ちゃおらん。
顔を洗って出直してこい!』
だってさ」
ふっと吹き出し、胸を波打たせるようにして、ヴァレンティンは笑いだした。
「ひどくない?」と言う。
「ひどい」
「ひどいよね」
「ひどいよ」
二人で笑う。
彼をそっと抱きしめてあげたい気もするのだけど……
そうするにはあまりに危険な相手だったと思い出して、ミランダは思いとどまる。
「ごめん。愚痴はここまで」
あんのじょう、がばっとはね起きてきた。あやうく押し倒されそうになり、かるく悲鳴を上げるミランダだ。
「作戦会議しよう。巴ちゃんはどこ?」
「どこだろう。追いかけて行っちゃった、チョウチョ」
「なにそれ」