もっとロンリーハート (4)
文字数 878文字
「気にするな。こっちはアバターだ」怪僧、落ちついている。「おれの本体はちょっと遠くにあって動けないんでな。ま、ぶっちゃけ生き埋めになってて」
(生き埋め?!?!?!)
「死んでねーぞ。生きてるから生き埋めだ」
かかかと笑う。
気にするなと言われても。
鬼太郎が、目玉おやじを見て驚く相手に、にっこり笑って
「怖がらなくていい。ぼくのおやじだ」
いや怖えよ!というのと同じだ。一般的に父親というものは眼球に手足をはやしたスタイルで茶碗の風呂に入っていたりはしない。まあそれはおいとくとして。
(生き埋めって何だ生き埋めって、センパイ)
「食え」
背丈が三センチだから両腕でがっきとウェイトリフティングよろしく持ちあげているけれども、実寸は将棋の駒くらいの何か、焦げ茶色のものを口に押しこまれる。
しびれるような甘み。草いきれに似た土くさい、濃い香り。むせそうになる。
「黒糖だ」
(黒糖)
「直火の窯で炊いたやつだ。ちょっと藻塩も入ってる。うまいだろう」同じものを四郎の口にも押しこみながら言う極小バルタザールだ。「これ舐めてちょっと待ってろ。すぐにもっとうまいもの食わせてやるからな。人を呼んでくる」
(人って)
「おれの弟子だ」
(弟子って)
こんな乱暴な、いやいや豪快な人の弟子ってどんなんだ。
武蔵坊ベンジャミンよりもっとでかかったりするのか。
(微妙……怖えよ)
確認しておくとバルタザールは、アリアとミランダ姉妹とは旧知の仲でも、この白狐兄弟とは鎌倉の佐助稲荷で一瞬すれちがっただけだ。
一か月止まっていた更新が再開したと思ったらいきなりの急展開。フロリアンでなくても(そして書いてる作者本人でなくても)おたおたして当然だ。
だから、
「上人さま」
ガラスの風鈴のような涼やかな声がして、
「濡れ手ぬぐいを持ってまいりました。これで」
膝をつき、縁の下をのぞきこんできた、にこりともせぬ子どもの顔が、
(男? 女?
天人……?)
この世のものとも思われぬほど凄絶に美しいのを見て、フロリアンの息が止まりそうになったとしても、不思議はない。