もっとロンリーハート (9)
文字数 1,116文字
「いや、おれが勝手にやったことだから気にするなって。この小さくなってるのも楽しいぞ。ほら」
バルタザールのほうが彼をなぐさめようとして、畳の上で連続でんぐりがえしなんかやってみせている。
「おーい。きつねくーん。元気出してくれー。ここで会えたの奇跡だろ。
どうやってきみらを探すかとほうにくれてたのに、きみらのほうから来てくれるなんて」
「そうですよ」とヴィンセント。「いまはとにかくしっかり召し上がって、体力をつけてください。お二人ともおかわりいかがですか」
たぶんすでに十二回目くらいのおかわりなのだが、兄弟ともうなずく。
ふんわり盛られた薄金色の飯に、なにやら菜の漬物が小さく切ってそえてある。これがまたうまい。山椒に似たさわやかな香りが鼻に抜けて、体のよけいな熱が一気に取れていく。
そまつだが飴色に拭きこまれた木の盆で、湯気の立つ飯碗が二つ運ばれてきた。
フロリアンがありがたく手をのばそうとすると、ヴィンセントがさりげなく向きを変えて、先にクリストフにさし出した。
「さ、四郎どの、どうぞ」
(何だ)
とまどうフロリアンに少年がすばやく視線を投げてよこす。見ていて、と言っているらしい。
「どっちがおれの茶碗でしたっけ、右と左」クリストフはにこにこしている。
「水玉のほうですよ。しましまが三郎どのの」
白いぽってりした地の上に、藍で模様が描かれているのだ。
のばしかけたクリストフの手が、止まる。
うつむいて、もじもじしている。
やがて、意を決したように、ふたたびそっと手をのばした。
そう、確率はフィフティ・フィフティ。
縞模様のほうを取ろうとして、迷っている。
衝撃のあまりフロリアンがヴィンセントをふりかえると、彼も哀しげな目で、かすかに首を振った。
見えていない。
まったく見えていない。
(こいつ、おれに心配かけないようにと思って――)
ここまでクリストフが見えるふりで通してこられたのは、おそらくヴィジョンを
紙に書いた文字も、スクリーンに映した画像も、見えない。
「どうかしたのか……目」
バルタザールもあっけにとられている。
水玉模様の飯椀を、ヴィンセントは静かに取って、そっとクリストフの手に乗せた。
「予定、変わりましたね。上人さま」と言う。
「そうだな」
「予定って」とフロリアン。「何ですか」
「上映会をやろうと思ってたんだ」
「じょうえいかい?」