ヒア・カムズ・ザ・サン (20)
文字数 1,471文字
かるくせきばらいしたカミーユの声のトーンが、ふと変わったのを、ロバートの耳は聞き逃さない。
「ア……アントンのこと」
耳たぶがほのかに染まっている。ロバートは思わずくすりと笑う。
(全成どのじゃなくて、アリアさんの話だな)
「きみには話したと思うけど、アリアは記憶がぜんぶ戻ったわけではないらしい」
「ああ。はい」
読者諸君には初耳だろうけれども、そういう情報伝達がすでにあったと思っていただきたい。
「アントンにすっかりなついている。自分はさらわれたのだという自覚がないらしい。まして、〈さとうくん〉こと四郎忠信くんを傷つけて行方不明にしてしまった張本人が彼だとは」
「そうですか」
正直に告白する。作者自身も忘れていた。
「アントンが、心苦しいから、彼女のボディガード役をはずしてくれと言ってきた」
「そうなんですか」
「でも彼以上の適任が思いつかない」
「そうでしょうね」
「いちおう候補を考えてみた」
「誰ですか?」
「
「え」
固まるロバートを、カミーユが心配そうにのぞきこむ。
「やっぱりまずいよね?」
比企
なんかひさびさに初期設定を思い出したんだが、身寄りのないカミーユがこの名門全寮制男子校に編入学するとき、力を尽くしてくれたのが坂東のマザーテレサこと学園長の比企先生(女性)だった。トーマスはその甥で養子だ。
比企一族も北条一族(彼らは理事。いま思いついたので書いておく)と同じく熱いやつらで、天涯孤独だった頼朝さまをここまでお育て申し上げたのはおれたちだというプライドとパッションに満ち満ちている。トーマスもそんな〈
当然――
当然、北条オーギュストとは仲が悪い。
「『わたしの身辺警護はいいから、アリアを頼む』と言ってみようと思ったんだけど」
カミーユ、消しゴムを落とすたびに拾われるのにへきえきして、トーマスの注意を他にそらしたかったらしい。しかし、
「やめませんか」思わず声が低くなるロバートだ。「比企さん、よけい舞いあがっちゃうと思いますよ?」
「やっぱり?」
「それにタイミングが悪すぎます。北条さんが帰ってきたら、何と言って話すおつもりなんですか」
「それね」
オーギュストこと北条政人はこの小説のオリジナルキャラクターで、お察しのとおり北条時政(父)と政子(姉)と義時(弟)の三人を兼ねている。
そのオーギュストくん、いまは義経ウォンテッドの件で朝廷のほうに出張中だ。
どうも彼には……、作者も全キャラクターに平等に愛を注いでいるつもりなのだが、どうも政人くんにはハズレくじを引かせがちで申し訳なく思っている。ごめんよ。
だって彼の近い将来を想像すると気の毒すぎる。
本当は忘れてしまいたいクロードの始末の件でいやいや行かされた出張からやっと帰ってきたら、そのあいだに愛するカミーユがアリアとラブラブになっていて、アントワーヌなんていう目障りなやつもしれっと居座っている。このうえ陽気な機関車トーマス(きかんしゃはよけいだった)がぽっぽと湯気を吐きつつ走りまわっていたら、オーギュストが逆上しても当然だ。
まあ北条が比企を全力で