もっとロンリーハート (14)
文字数 1,419文字
カミーユのささやきを聞いて、アリアが息をのんでいる。
「鶴岡八幡宮で、舞を奉納?」
無言で見つめあう美少女二人。
その動画を見せられて(聞かされて)いる野郎三人も無言だ。
作者自身がときどき状況忘れそうになるので書いておく。
「嫌?」とカミーユ。
「嫌じゃないけど」とアリア。「もちろん、喜んで。でも」
「でも、それって」
「罠、よね?
だって、わたしがそんなめだつことしたら、あの人――
九郎
わたし、
そんな。
違うと言って、お姉さま」
「違う」
「え」
「違うよ」
「え何」言下に否定されて、混乱するアリアだ。「違うの? なんかプロット変わった?」
「アリア」
カミーユの手が、すっとアリアの頬にそえられた。そのままかるくあごを持ちあげる。
「これから話すこと、誰にも言わないでくれる? わたしは、とても危ない橋を渡ろうとしてるんだ」
あごクイされたまま、アリアがかすかにうなずく。
「舞の奉納は、政人のアイデアだ」
「北条殿の」
「わたしは、彼には逆らえない。よく彼をわたしが全面支配しているようなイメージを持たれているけど、逆だ。わたしは彼なしには何もできない」
「そうなの?」
「手足をもがれたようなものだよ。彼のサポートのおかげで、いまのわたしがある。感謝している。恩がある」
「感謝。恩――」
「その上、彼は勘が良い。とくにわたしのこととなると、何でもお見通しだ。
すでに疑いはじめている。
わたしが本当は、九郎をこのまま逃がしたがっているんじゃないかと」
「そうなの?」
アリアの喜びの叫びに、カミーユは無言だ。
「やっぱりそうだったのね! わたしの思ったとおりのお姉さまだった! 大好き」
「アリア」
「なぁに?」
「そこで、頼みがある」カミーユの声には苦痛のひびきがある。「きみの友だちで、佐藤四郎忠信という子がいるよね?」
「ええ」息をのむアリア。
「彼と連絡は取れる?」
二つのシルエットが、離れた。アリアがすっと身を引いたのだ。
「取れ、ない、けど」とぎれとぎれに言っている。「どうして?」
「そう」
「どうして佐藤くん?」
「いいんだ。忘れて。いまの話、誰にも言わないでね」
「教えて」
アリア、仁王立ちになっている。頬が紅潮し、目が疑いと怒りできらきら光っている。
「あたしはどうなってもいいの。お姉さまのためなら。御曹司のためなら。
だけど佐藤くんは。
佐藤くんを巻きこまないで」
「でも彼は、たしか九郎の
「そう、だから佐藤くんを召し使えるのは御曹司だけなの。お姉さまでも手出ししちゃだめなの。もちろんあたしも。
ていうか! あの人、あの人ね、ほんとに、ほんっとうーに良い人なんだから!
佐藤くんのいない地球なんてもう生きるに値しないんだから!」
「アリア」
「何言ってるんだろうあたし。自分でも何言ってるかわかんない!」
「うらやましいな」
カミーユが微笑んでいる。
「きみに、そんなに想われている男。嫉妬してしまう」
「えっ? え、あっ、あの、これは、違くて」
「うらやましいよ」カミーユがきゅうにむせび泣く。アリアがあわててかけ寄る。
「わたしはどこで間違えたんだろう。こんな、大切な人たちを利用しないと生きていけない人生。こんなはずじゃなかった」
「ごめんなさい、泣かないで。ねえお願いお姉さま、泣かないで」
「泣かないで」
白壁の上の画像が、薄れていく。フェードアウトだ。