ヒア・カムズ・ザ・サン (1)
文字数 763文字
「何」
「奇跡だと思わないか」
「だから何」
「おまえが、おれと出会えて」
「主語おれ?」
「こうしていまも別れないでいるっていうのは」
「何かの天罰でしょうね」
「だっておれたち真逆じゃない。性格」
「スルーかよ」
「おれはさ、目の前にボタンがあったらとりあえず押してみるタイプなんだよね。でもベンは押さない。ほぼ百パー押さない。つまらないと思わない? そんな人生」
「あのね。御曹司が押したボタンの後始末、オールウェイズ百パーおれですよね? なんなら千パー?」
「押してみようよー。一回くらい」
「いいですよ。
でもね。これはやめようよ。ね。
いま目の前にあるやつ」
「なんで」
「だからね。
おかしいと思わない?
まわり断崖絶壁よ? なんでこんなところの岩壁にいきなり扉ついててボタンあるの」
「ううー。
さっきはちゃんとベンの言うこと聞いてやめたじゃない。あれ感動したなー。おれもやりたかった。めちゃくちゃやってみたかったのにがまんしたじゃない、いい子で」
「あれも、ふつうやりません」
「そう? 男と生まれたからには一度はやってみたくない? あいつ尊敬するわ。度胸ある。ちゃんと○○○に片手そえてた。しかも全裸」
「銅像だからね」
「もろアシタカだったよ、立ち位置が。崖の突端で」
「アシタカは全裸で立ち○ョンしません」
「そうかな。ぜったい気持ちいいと思うよ! 崖の突端から谷底に向けて全裸で立ち○ョ……」
「おっと」
「あーこれが壁ドンてやつ?」
「違います」
すきあらば相手の腕をかいくぐって前へ出ようとするクロードと、ベンジャミンの攻防が続いている。
「ん? スマホ」
「え?」
「鳴ってる。ベンのじゃない?」
トゥルルルルル……
プチ
「三郎か?(嬉)」
回線の向こうから大騒ぎが聞こえてくる。
ハイタッチの音や、聞き慣れない子どもの歓声も混じっている。