ここにもロンリーハート (5)
文字数 1,043文字
いちばんのお宝は言うまでもなく、愛くるしい八歳の帝、安徳天皇。次のお宝が三種の神器だ。この二つについてはいずれ書くけれども、他にもその持って逃げたプレシャスゴージャスなコレクションのなかに、
ひとつの鼓があった。
――というのが、この『ダブルダブル』世界の根幹をなす設定だ。
やっと出てきたぞ私よ! 遅い! もう巻三も半ば近くだ!
いつになったらこの話になるのか、自分でも気が気じゃなかった。龍のうんこで悩んでいる場合じゃなかったのだ。
この鼓、名を、
「雨を呼べる鼓らしくて」とヴァレンティン。「だけどおれたち
ひとつの鼓を分け、ふたつのタンバリンに作り直した。いまの音楽に合わせやすくするためだ。楽器にくわしくて器用な重衡兄のアイデアだったそうだ。
「どうしてあたしたちなら鳴らせると?」
ヴァレンティンはミランダの目をまっすぐに見た。
「きみたちが龍王の娘だから」
太古の昔、天から下ってこの島に降り立った彼らは、令和のいまに至るまでわが国を統べる王の一族となった。近ごろは牙や鱗を秘め、もっぱらヒューマノイドの姿で生きている。後白河ローレンスの例を挙げるまでもない。
だが、早くから彼らと分かれてさらに海底へと下った一門があったのだ。そこに
アリアとミランダ姉妹は、当代の龍王と
初音の鼓は、その龍の血を引く者にしか鳴らせない。
そんな初期設定、歌舞伎にあったかなと顔をしかめておいでのあなた。
ここはひとつそういうことにしておいてくださいませ。
「あのとききみに見抜かれたけど、形見分けのつもりだった」ヴァレンティン、淡々と言う。「おれ今度こそ魂ごと粉砕して消えるのかなと思っていたから。こんなことになるなら鼓、朝廷に返せばよかった。いやだったんだ――あの人たちに――また利用されるのかと思うと。純粋に楽器として愛してくれる人に持っていてほしかった。
ごめん」
頭を下げる。
「どうして謝るの?」
「けっきょくきみたちを面倒に巻きこんだ」
「ちょっと整理させて」ミランダは眉をしかめた。「あたしたちがトラブルに巻きこまれてるって、いつから知ってたの? どうやって知ったの?」
「GPS搭載なんだよ、そのタンバリン」
「あー」