ここにもロンリーハート (4)
文字数 1,283文字
「にしても、タピオカって」とミランダ。
「いや、おれだってね」ヴァレ兄、ため息まじりだ。「さすがにいまさらタピオカはないだろうと思ったんだけど、もう
「
あいかわらず人に有無を言わせないゴッドファーザーなんである。
のはずだったのに、
「近所に来たタピオカ屋さんの車に長蛇の列ができてるって聞いて」パトリシア、吹き出しそうなのをこらえている。大殿ダディのもくろみどおり、ヴァレンティンの屋台は大繁盛してしまったのだ。まあ当然だけど、ぜんぜん世をしのんでない。
「行ってみたらほんとすごくて、整理券出してて」
「出してないよ」とヴァレンティン。「もう、話作らないで」
「出してたくらいの勢いで」とパトリシア。笑っている。「そしたら」
「そしたら?」
彼女がコインを渡したら、しげしげとながめられ。顔を上げて、じっと見つめられ。
やおら、呼びかけられたそうだ。
「もしかして、木曽殿のゆかりのかたでは?」
「はっ。なぜそれを?!」
「ここに家紋が。五七の桐紋」
「いやいやいやちょっと待って」とミランダ。「あのね。五七の桐紋、ふつうの五百円玉ならみんなついてるよね? 裏に」
そうなのだ。後白河院が木曽義仲にたまわった紋、なぜかいまの五百円玉に刻まれている。そういう意味では私たちみんな木曽殿ゆかりの人ですね。
ヴァレンティンとパトリシア、大笑いしている。
「もう! だから話作らないで! ちゃんと教えてよ」
実話のほうもじゅうぶん面白かった。
源平のときにはこの世で相まみえていないはずの知盛と巴だが、いまはネットがある。遠巻きに見たとき「もしかして」と思ったパト嬢の直感は、列に並ぶこと半時間、ついに自分の番が来たときに確信に変わった。カフェエプロンの似合うこの男、かつては甲冑が似合っていたはずだ。
「タピオカジャスミンミルクティーおひとつですね」
「新中納言殿ですね?」 ※知盛の肩書
「は??」
「いやあの、タピオカジャスミンミルクティーですよね?」
「だから、新中納言殿ですよね?!」
「そんなマイネーム冠したメニュー作ったかな?と一瞬思っちゃった」
ヴァレンティン、楽しそうだ。
「あったら飲みたいよ!」女子二人がハモる。
「二人の出会いはわかったけど」ひとしきり笑ったあと、いちばん訊きたかったことをミランダは尋ねた。「教えて。どうやってあたしの居場所をつきとめてくれたの? あたし自身、自分がどこにいるかわからなくなってたのに」
「苦労したけど、決め手になったのは」
ヴァレンティンが言っているあいだに、パトリシアが包みから例の物を出してきた。
タンバリンだ。
ここに来るまで長かったぞ! 私よ!(セルフ突っこみ)
「説明させて」とヴァレンティン。「それと言い訳も。今回のことは、もとはと言えばおれのせいだから」