ここにもロンリーハート (7)
文字数 1,032文字
ヴァレンティン、真顔に戻る。
「その……、きつねくんたちのこと」
不意打ち。
胸がずきりと痛むミランダだ。
「召喚できるとマニュアルに書いてあったけど、正直おれも意味がわかってなかった。申し訳ない。
管狐。いわゆる式神の一種だ。竹筒に入るほど小さく、しかも使い手にしか見えない。
ちなみに「白狐」の「白」も本来は色としての白ではなく、「透明な=見えない」という意味なのだそうだ。だから管狐と重なる部分もあるのだが、
「まさかそういう便利なペットではなくて、きみたちの」
ミランダ、うつむいている。
「大事な……クラスメート、だったとは、知らなくて」
そっとのびてきたヴァレンティンの手が、あと少しでミランダの頬にふれるところまで来て、止まっている。ためらっている。
そう。やめて。とミランダは思う。
いまは、さわらないで。
(三郎)
「あの二人も巻きこんでしまって」とヴァレンティン。「たぶん苦労をかけたと思う。いっしょだといいと願っていたんだけど、はぐれてしまったの?」
「はぐれた――か、もしかすると」ミランダののどから短い笑いがもれた。
「もしかすると?」
だめ。考えちゃだめ。とミランダは思う。
(疑っちゃだめ)
だが。
一人でいたときは気を張って、ネガティブ思考を追いはらいつづけてきたけれど。
こうして頼れる人に再会できて、新しい味方もできて(パトちゃん&チキ号)、張りつめていたものが、少し、ゆるんで、
そのすきまに、ふっと、
絶望という名の巧妙な悪魔がしのびこんでくる、ということがある。
(三郎は)
(追ってきてくれなかった)
(あたしじゃなく)
(選んだ)
(御曹司を)
おれファーストにはなってくれないんだ? 彼の声が耳によみがえる。――無理。はっきり言うねー。フロだってあたしファーストにはなれないじゃない。御曹司ファーストじゃない。うん。ごめん。
「そういうとこ好き」
「好きって言った?(嬉)」――
わかってたのに、お互い。いざとなったら自分たちのことは後回しだと。
そういう二人だと。
「これ。タンバリン」
目の前の、別の男の声に。あんなに会いたかった憧れの人の声に、現実に引き戻される。
「打ってみなかったの?」
そっと手に、楽器を渡される。
「呼んでみなかったの。彼」
「うん」
一人でなんとかしようとしてた。
「どうして?」
「どうしてって……」
だめ。だめ。考えちゃだめ。
(もし、呼んでみて、来なかったら)