もっとロンリーハート (15)

文字数 1,821文字

(これ、まじやばくね? 試写ってレベルじゃないじゃん、すでに)
 のどがからからになっていることにフロリアンは気づく。
(何が()んだよ、これ以上)

「ちょっと整理しようか」とバルタザール。

「ようするに、一言で言うと――」

「ものすごくややこしいことになってる」
「それはおれでもわかります」とフロリアン。

「作者さまがなまじ本とか読みあさって気合い入っちまったからいけないんだよなー。プロットが当初の予定より数段複雑になった」
「その話はいいんで先つづけてください」

「きみらの御曹司が全国指名手配されてることは知ってるか?」
 フロリアンがうなずき、クリストフが首を振る。驚きに、見えない目を見開いている。
「だよな。じゃ、それが鎌倉殿の指示だってことは」
 やはり兄はうなずき、弟は首を振る。何もかもクリストフには初耳なのだ。

「クロードくんには一択しかない。とにかく隠れる。逃げる。逃げきることだ。
 どこの地の果てで見つかってもその場で斬られる。まして鎌倉へのこのこ現れたりしたら、『飛んで火に入る』何とかってやつだ」
 うなずく兄弟。
「だが、そうなると問題は、誰がアリアちゃんを助けに行く?ってことだ」
 腕を組んで、深ぶかとため息をつくバル兄だ。
 男らしい。
 くどいようだが、身長3センチではある。

「アリアちゃん、いますぐっていう命の危険にさらされてるわけじゃなさそうだ。むしろ大切に扱われてる。
 だけど、きなくさい。よな。だろ?
 何だろうなその、舞の奉納って。カミーユちゃんが何を考えてるのかおれにもさっぱり見当がつかない。クロードくんに罠を仕掛けておいて、自分でその裏をかこうってか? 危ねえな。
 ごめんよ。おれが生き埋めなんかになってなけりゃ、ちゃっと鎌倉に行ってくるんだが」
「おれが行きます」
 クリストフが言いだし、「おまえは」「きみは」「四郎どのは、いまは無理です」と三人がかりで止めるのにしばらく時間がかかった。本人はがんこに「なんで」と言う。

「なんでって、ボロボロだろおまえ」とフロリアン。
「それにお聞きになりましたよね」とヴィンセント。「四郎どのにもトラップかけられてますよ? 何かはわからないけど、行ったら確実に巻きこまれます、危険なことに」
「だけど」とクリストフ。
「だけどじゃねえわ」とバルタザール。「きみはまず養生しろ」
 不満顔のクリストフ。小さく、むうとふくれている。
(まあたしかにな)ちょっと頬のゆるんでしまうフロリアンだ。(さっきのはかなり、来たな。あれは飛んでいきたくなるわ。
「さとうくんのいない地球なんて!」だろ?)
 あとの二人にわからないように、ちょっと弟をつついてみたりする。

「責任を感じるよ、おれは」そうとも知らず、バル兄がしみじみ言っている。「そもそも、カミーユちゃんを表舞台に引っぱり出したのはおれだ。おれが、彼女をたきつけた。
 伊豆の田舎で……
 あのころは楽しかったな。飯食いながら、伊豆だから美味いものいっぱいあるんだよ、山の幸も海の幸も。そんで食いながら『世の中うまく行ってねえじゃん。なんか変えられねえもんかな?』っていろいろ語らって、妄想して」

「あの子には才能があった。ずっと、海の底で閉じた貝みたいに静かにしてたのに、いったん立ちあがったらいきなりこれだ。おお?って言う間に大逆転を起こしやがった。
 ほんとによかったのかな。これで」

「あれだな。妄想ってのは、妄想のうちがいちばん楽しいな。
 あのままそっとしておくべきだったかもしれない……
 なんて考えちまうんだよ。最近」
 バルタザール、ちょっと涙ぐんだりしている。

「すまない、いまはその話じゃなかった」目をこすってバル兄。「急を要するのはクロードくん対策だったな。
 ほんと危ない。八幡宮で静御前が舞の奉納、なんて告知されてみろ。勘のいい彼のことだ、すぐに見抜くだろう、これは罠だと。挑発だと。
 そして」

「来ますね」フロリアンが低くつぶやく。「百パー来ます」
「そう、来る。すべてわかっていて来る。アリアちゃんを奪取して逃げるというミリ単位の可能性に一か八か賭ける。
 ベンジャミンくん一人では止められないだろう。となるとベンくんも一択だ。主君と命運をともにする――
 これが最悪のシナリオで、たぶんほぼ確定のシナリオだ。
 どうする」

 沈黙。
 苦く、長い沈黙が落ちる。

 前にも書いたと思うが、佐藤兄弟、二人ともあまりCPUの容量が大きくないのだ。フリーズしやすい。
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登場人物紹介

静/アリア(しずか/ありあ)

この物語のヒロイン。明るく素直で天然。特技は歌とダンスと水泳、ばかりでなく、雨を降らせる特殊能力を持っているが、本人はその重大性に気づいていないらしい。惚れっぽく、美しい者には見境なくフォーリンラブしてしまう。海霊族(ネレイド)。

源九郎義経/クロード(みなもとのくろうよしつね/くろーど)

アリアの恋人。天性の人たらし。身体能力、とくに跳躍力に優れ、お気楽な言動で周囲をふりまわす。ベンジャミンたち郎党からは「御曹司」と呼ばれている。アリアを熱愛する一方で、実姉のカミーユとぬきさしならない愛憎関係にある。樹霊族(ドリュアード)。

源由良頼朝/カミーユ(みなもとのゆらよりとも/かみーゆ)

クロードの異母姉。男装し、源家の嫡子として生きている。頭脳明晰で完璧主義。そのため破天荒な弟のクロードとは惹かれあいながらも衝突してしまう。父の非業の死により心に深い傷を負っているわりには、しばしばナイスなボケもかます。樹霊族(ドリュアード)。

阿野全成/アントワーヌ(あのぜんじょう/あんとわーぬ)

醍醐寺(真言宗)の荒法師。クロードの同母兄、カミーユの異母兄※。悪禅師(あくぜんじ)の異名を取るわりにはクロードの何分の一も暴れておらず、そんな自分の生き方(というかキャラ設定)に疑問を抱く毎日。樹霊族(ドリュアード)。

※史実では頼朝より年下ですが、このお話ではお兄さんに設定してあります。

源”悪源太”義平/ジャン=ポール(みなもとのあくげんたよしひら/じゃんぽーる)

源家九兄弟の長男。クロード・カミーユ・アントワーヌの異母兄。性格は豪放磊落。無念の死をとげ怨霊となるも、いまはお気楽雷神ライフを満喫中。アリアの熱烈なファンで動画のチャンネル登録をしている。樹霊族(ドリュアード)。

遥/ミランダ(はるか/みらんだ)

アリアの姉。妹思いでクールかつ熱血。特技はアリアと同じく歌とダンスと水泳。アリアとよく似た容貌だが、5センチ背が高い。アリアの行く末を心配し、クロードと引き離したいと願っている。海霊族(ネレイド)。

巴/パトリシア(ともえ/ぱとりしあ)


ミランダの新しい友人。一人当千の女武者(アスリート)で尽くし好き。恋人の木曽義仲を失い、彼の菩提を弔って生きていたが、正直たいくつしていたところだったため、ミランダとアリアの救出に喜んで参戦する。素はおちゃめ。土霊族(ノーム)。

平知盛/ヴァレンティン(たいらのとももり/ばれんてぃん)


平家の若き当主。物腰柔らか、文武両道の公達(きんだち)。巻一でみずから時の深淵に沈んだはずだったが、アリアとミランダの危機に急遽召喚されて浮上。巻三では活躍が期待される。クロードとは因縁の仲ながら、互いに親近感を抱いているらしい。樹霊族(ドリュアード)。

佐藤四郎忠信/クリストフ(さとうしろうただのぶ/くりすとふ)

アリアの友人(片思い中)。長身で俊足だが、内気で目立つのが苦手。「天性極信」(てんせいごくしん)、つまり「めちゃくちゃいいやつ」と広辞苑第五版にも書かれているが(「極信」で引いてみてください)、本人は一度でいいから「いけないひと」と呼ばれてみたいと思っている。下戸という噂あり。水狐(ウォーターフォックス)。

佐藤三郎嗣信/フロリアン(さとうさぶろうつぐのぶ/ふろりあん)

クリストフの兄。容貌・性格・身体能力ともにクリストフとよく似ているが、左肩から右脇腹にかけて貫通創あり(一度死亡)。巻二で晴れてミランダと両思いになった(おめでとう)。酔うと口が悪くなるという噂あり(酔わなくても口が悪いという噂もあり)。火狐(ファイアーフォックス)。

文覚/バルタザール(もんがく/ばるたざーる)


荒法師。俗名(ぞくみょう)、遠藤盛遠(えんどうもりとお)。荒海を一喝して静める法力の持ち主。カミーユとは中学時代からの先輩後輩の仲で、アリアとミランダとは江ノ電の中で知り合う。人情に厚く、弱い者を見ると放っておけず、敵味方関係なく義のために突き進む行動の男。その猪突猛進がしばしば波乱を巻き起こす。水霊族(ナイアード)。

薬師丸/ヴィンセント(やくしまる/びんせんと)


文覚の弟子。愛称ヴィン、ヴィニー。のちにカリスマ的名僧となる人物の少年期の姿。推定年齢十二歳前後(ヒューマノイド換算)。冷静沈着で、師の(ときに暑苦しい)かわいがりように迷惑そうな表情を見せているが、何のかの言って名コンビ。幻視および幻写という特殊能力と、天人にも見まがう美貌を持つ。風霊族(シルフィード)。

武蔵坊弁慶/ベンジャミン(むさしぼうべんけい/べんじゃみん)

アリアの友人。クロードの右腕。筋骨たくましい大男だが、冷徹な知性派でもあり、クロードの暴走をつねに(かろうじて)食い止めている。皆の精神的主柱(万年しりぬぐい役とも言う)。こう見えて料理男子。人馬族(ケンタウロス)。

平教経/ハロルド(たいらののりつね/はろるど)


平家ファミリー最強の戦士。ことに強弓は他の追随を許さない。肩書は能登守(のとのかみ)。素は気さくな好青年で、甥のアーサーを溺愛する叔父バカ。樹霊族(ドリュアード)。

言仁/アーサー(ときひと/あーさー)


平家ファミリーの秘蔵っ子。齢六歳の先帝。言仁は諱(いみな=本名)で、帝としての諡(おくりな=没後に贈られる称号)は安徳天皇。本人は「天のうをやめれた」ことを喜んでいる。樹霊族と龍族両方の血を引く「ダブル」。

畠山次郎重忠/ロバート(はたけやまじろうしげただ/ろばーと)

鎌倉幕府の重要御家人の一人。清廉潔白な人柄でカミーユの信頼厚く、「坂東武士の鑑(かがみ)」と称される。クロードやベンジャミンたちともかつて戦場でともに戦った仲。見た目しゅっとしているのに力持ち。人馬族(ケンタウロス)。

平清盛/リチャード(たいらのきよもり/りちゃーど)

平家一門のゴッドファーザー。入道相国(にゅうどうしょうこく)とも大殿(おおとの)とも呼ばれる。そのカリスマをもって一時は最高権力者の座に昇りつめるも、病に倒れ志半ばにして世を去った。いまは隠れ里のシークレットガーデンパレス祖谷を理想郷にすることに熱中しているらしい。ニット帽やハンチングの似合うお洒落なダディ。樹霊族(ドリュアード)。

平時子/エリザベス(たいらのときこ/えりざべす)

平家一門のゴッドマザー。若い頃から夢追い人の夫に尽くして苦労を重ね、彼亡きあとは気丈に子や孫を支えてきた。いまはシークレットガーデンパレス祖谷でのんびりくつろいで……いいはずなのだが、ついあれこれと皆の世話を焼いてしまい、いまだに気苦労が絶えないらしい。樹霊族(ドリュアード)。

平忠度/ウィリアム(たいらのただのり/うぃりあむ)

清盛の異母弟(末弟)。清盛の長男の重盛より年下で、世代的には知盛よりちょっと上くらい。肩書は薩摩守(さつまのかみ)。平家ファミリー屈指の歌人だが、文武両道で武芸にも優れ、しかも性格温厚でひかえめ。クロードをある重要人物とひきあわせる役をはたす。樹霊族(ドリュアード)。

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