能登殿最期 つづき
文字数 771文字
鎧もほぼ引きちぎって胴だけ残し、
大手を広げて立つ。
「誰か来い! 生け捕りにして鎌倉へ連れていけ。頼朝に言いたいことがある」
(怖えよ……(泣))←源氏方全員の心の声
それでもバカはいるもので、力自慢の男が三人がかりで襲いかかる。
教経は落ちついて、まず一人海へ蹴り落とす。で、あとの二人を一人ずつ小脇にかかえ、「ひと締め締めて」(怖え怖え!)、
「いざうれ、さらばおのれら、死途の山の供せよ」
(はは、きさまらには道連れになってもらうぞ)
――とて、生年二十六にて海へつッとぞ入り給ふ。(『平家物語』より)
この間――
義経はずっと見ている。
と、私(作者)は思う。
八艘も跳んで遠くに行ったりしていない。そばで見ていると思う。
なぜって、教経が見ているからだ。義経の目を。
最後までひたと目を合わせたまま、海につっと入る。
と、私(作者)は思う。
義経にひょいと飛びのかれたとき、何かが教経のなかで、ぷつりと切れたのだ。
こいつ(義経)は――
生きるつもりだ。
おれとは違う。
こいつには未来がある。おれとは違う。
組んで倒してどうする。
初めから意味などなかったのだ。今日の戦には。
すみません。もうね、作者(私)の頭の中では『ブレードランナー』のクライマックスでのルトガー・ハウアーと能登殿がごっちゃになっててですね。能登殿の背後に荒波どころか白いハト飛びまくってるんですね。でも義経はもちろんハリソン・フォードより断然いい男で、若くたってハリソン・フォードじゃだめなの全然だめ。
皆さまもどうかご自分史上最高にきれいな顔で義経吹き替えといてください。ぜひ。
その顔で、教経の消えた波のあとを、黙って見つめていてください。
合戦は、まだ終わっていないのですけどね。