ヒア・カムズ・ザ・サン (10)
文字数 1,145文字
「お」
ミランダとヴァレンティンがほぼ同時に声を上げた。
パトリシアも身を起こす。
ベッドの上。
いや違うよ。って何が違うのだ。
三人で寝ころんで、それぞれのスマホをいじっていた。
ダブルサイズの二段ベッドの上下に寝ている。女の子二人が上で、男一人が下。
このダブル×ダブルベッドがどこにあるかというと、ワゴン車の中だ。
商売物のタピオカ以外にもおいしいものの詰まった冷蔵庫が完備。金箔赤じゅうたんでこそないが、ワゴン車にはあるまじき高級そうなラグが敷いてある。しかもむぞうさに。
先刻ミランダがおそるおそる、これ何?とヴァレンティンに尋ねてみたら、さらりと返ってきた答えが
「あー、キリム。シャルキョイの。ヴィンテージじゃないけどいちおう手織り」
日本語で言ってくれ日本語で!とハートの奥底で叫ぶミランダだった。
すっきりした赤と白が美しい。生命の木に小鳥が二羽、向きあってとまっている図だという。
この調子で家具調度をぜんぶ説明していったらきりがないのでやめる。
「圏外になっちゃった。武蔵くんのスマホ」とミランダ。
少し青ざめている。それはそうだ。せっかく佐藤兄弟の無事もわかって、これから大事な相談をしようとしていたのに。
「接続が悪いんじゃないかな」とパトリシア。「壁が厚すぎて」壁をとんとん叩く。「この子の」
この子というのは、いま彼らを乗せてくれているチキチキバンバン2号のことだ。当初はチキ1号にすべてまかせる計画だったのだが、さすがにそれは荷が重すぎる、昆虫虐待だろうと気づき(作者が)、2号を出すこととあいなった。
空飛ぶ1号に比べて2号は幼くて、まだ
ようするに、ふわーっと淡い緑のマイクロバスだと思ってください。猫バスならぬ虫バス。
「つながらない?」とパトリシア。
「つながらない」とミランダ。「どうしよう」
「それでいい」とヴァレンティン。
「どうして?」ハモる女子二人。
「弟が、いや、正確には従弟だけど。お二人をお迎えして、お連れしたみたいだから。義経くんと弁慶くん」
スマホをタップして閉じ、二段ベッドの下から頭を出して、二人を見あげて微笑んだ。
「え、ヴァレ兄のには電波とどくの」
「うん」さらりと言う。「
どこまでセレブ?!
まあるく口をあけているミランダの横で、パトリシアが尋ねる。
「お迎えしたって、どこへ?」
「さあね。ご想像におまかせするよ。
墓場だったりしてね」
目を細めてくすりと笑う。彼のくせだ。
女子二人は、目を見あわせた。
〈ミラちゃん、この
〈信用しちゃだめ〉
〈やっぱり〉
うなずきあう二人。
同志としてのきずながいちだんと深まった瞬間であった。