レッド・レイン (5)
文字数 836文字
涙だ。
ヴィンセントの。
〈ヴィン 押さえろヴィン〉バルタザールだ。
〈中止しろ〉
〈強制終了する みんなログアウトしてくれ 早く さもないと〉
〈わたしたち風は 何もできませんでした〉ヴィンだ。
〈見ていたのに〉
〈三郎くん聞こえるか ログアウトだ きみだけでも〉
はっとわれに返ってフロリアンが弟を見ると、
〈四郎〉
自分の膝の上では、ヴィンセントにあずけていないほうの右手から、炎の色が消えていくところだ。
危ないところだった。
白狐ではなくその上位の
接続前にヴィンが言おうとしていたのはこのことだったのだ。
礼儀正しい子だから──
〈わたしが暴走したら止めてください〉
そうではなく、
おれたちに
、どうか暴走しないでくださいと。そうなったらヴィン自身にもきっと止められないから。彼自身もきっと共鳴してしまうから。
おれたちの怒りに。
悲しみに。
ぽた、ぽた、としずくが落ちる。
目からではない。クリストフの目はうつろだ。
まるで眼球をえぐり出されてしまったかのように。
弟はまだ、自分の
山火事も恐ろしいが、津波の破壊力は桁違いだ。火は最悪、燃やすものがなくなればそこで止まる。だが水は。
すべてを飲み尽くしても、なお終わらない。
〈四郎〉
弟の輪郭の中で、揺れている。水が。
見る見る水面を上げてくる。
彼はまだ、セーブする方法を知らない。しかもいま、見えない。視力を失ったぶん、他の力が増幅されて
ヴィンセントの光る手に、流れこみ始めている。水が。
おれが火になってぶつかったくらいでは止められない。相討ちはともかく、ヴィンとバルタザール先輩まで巻き添えにしてしまう。
〈三郎どの ログアウトしてくださ──〉
ヴィンが固く目をつぶった。同時にフロリアンの中でも何かがはじけとび、一気に流れこんできた。
水が。