もっとロンリーハート (3)
文字数 925文字
弟が傷をなめてくれているのだ。
一瞬、フロリアンの胸は、ちょっとかるくはり裂けそうになる。
おまえのほうが満身創痍なんだよ、クリストフ。
なんでこんなにいいやつなんだ。
おれに残ってる体力、ぜんぶこいつに注ぎこめないものか。
稲荷大明神さま。
おれたち、なんでこんな目に遭ってますか。とくにおれ。何かやることあってこの世に呼び出されたんじゃないんですか。だったらそれ、させてください。このままこんな所で雨に打たれて死にたくない。
傷痛いし。
腹へった。
腹、めちゃくちゃへりました。なんか食わせてください。お願い。
こいつに食わせてやって。
かわいそうだから。
内容的にはひじょうに現金だが、血を吐くほど
その祈りが天に通じたのか、それとももともと、祈る必要などなかったのか。
救いは、かんたんにもたらされた。
(ん?)
なんか、めっちゃいいにおいがしてきたのだ。香ばしい。
においを嗅いだだけで体に力がみなぎってくるような。
(何これ)
肉ではない。油揚げでもない。どちらかというと草を煮詰めてしぼって、それを天日で干したような。強烈で、こくのある。甘い。
(何)
ひょい、と現れた見おぼえのある顔に、三郎フロリアンはさらに驚き、身を起こす。
「きつねくんか」
相手も少なからず驚いている。
「どうしてここがわかった。いや、それより……ケガしてるのか? 二人とも?
待ってろ、すぐ手当てしてやる。
まずはこれ食え」
(バルタザール先輩)
「三郎くんと四郎くんだよな。ひさしぶり。
元気だったか。ってどう見ても元気じゃねーな、ははは。失敬。
まあおれもこんななっちまってるけど驚かないでくれ」
(驚きますよ!)
こんななっちまってるというのがどういうことかと言うと。
いま佐藤兄弟の前に
あいかわらず余裕ぶっこいて豪快に笑ってはいるが、
身長、3センチくらいしかないんである。