ヒア・カムズ・ザ・サン (5)
文字数 1,387文字
「押してない」
「いや押したよね」
「押してないって」
こういうのを押し問答という。
クロードも素で驚いている。本当にボタンにはさわっていないらしい。
ドアの合わせ目が光っているだけではない。ボタンも光っている。
地鳴りもしている。低周波のうなり。
あと、ひじょうに重要な情報を忘れていた。いま夜だ。
え?
いや……
小便小僧の画像が真っ昼間だったから、誤解させていたと思う。申し訳ない。あれは「さっき」の話だ。さっきっていつなのか、どうか訊かないでほしい。
つり橋の動画も真っ昼間だったから、やはり誤解させていたと思う。重ねがさね申し訳ない。あれはビデオレター(録画)だ。
正直に告白すると、作者自身、昼間だとずーっと思いこんでいた。この章に「ヒア・カムズ・ザ・サン(お日さまが出てきたよ)」なんてタイトルをつけてしまったのが敗因だった。
だけど、ひょっと気がついたんである。前章の最後でクリストフたちは「夜食にレトルトカレーを」食べてたじゃないか。
そうだしまった夜だった。
虫もリーリー鳴いてた。
だから夜なのだ。
いったんここまで書いて保存して、あわてて巻一からざっと見てみたんだけど、巻一の終わりでアリアとクリストフが拉致されてからいったいリアルワールドでどれだけの時間が経過したのか計算したら、もしかして
三日
くらいじゃないのかというとんでもない数字が出てきた。
いや。いやいやいや。いまさら無理だろうそれ。
ああもうしかたない。せめて時刻合わせだけでもするしかない。夜。夜で行きましょう!
夜……
じゃあ夜中にこの主従はなんで山の中をほっつき歩いているんでしょうね。
それはもちろん……ですね、野宿しようと。そう、野宿の場所を探してるんです。ええ。
山の中だったら日が落ちたら真っ暗で歩くどころじゃなくない?
ええと……ですね、いちおう車が通れるくらいの道路はあるんですよ。そこに街灯があるわけ。
いまお読みくださっている読者さまの多くは、ご自分でもここNovelDaysで小説を書いておられることと思う。
教えてください。こういうつじつま合わせってどうしてますか?
こんなとっ散らかって半泣きになってるの私だけ?
作者の七転八倒しているあいだにも、地鳴りはだんだん高まってくる。
遠くから、何かが近づいてくる。
昇ってくる。地の底から。
クロードを見ると、瞳がキラキラしている。期待で。
(トキソプラズマか?)
心底あきれはてるベンジャミンだ。
ご存知かと思うが、寄生虫トキソプラズマに感染したネズミは脳をやられて恐怖心・警戒心というものがなくなってしまい、大胆にもネコの前へ出て行って、結果ネコに食べられる。
このトキソプラズマは人間にも感染する。感染すると人間も、ひじょうに大胆になるという。好奇心・チャレンジ精神・行動力が爆発的に増大し、進撃の巨人の前へ出て行って食べられる。
作者も十年くらい前に感染してる自信があるのだが、その話をしだすと長くなるのでいまはしない。
ボタンとは別に、扉の上方に、小さな灯りが横一列に並んでいることにベンジャミンは気づく。
列の左から右へ、点滅が動いていく。
(エレベーター?)
ぐおん、と軽い地響きをたてて、
何か
が止まった。闇と静寂の中。
鋼鉄の扉が左右に開き――
現れたのは――
現れたのは。
次頁へ続く。