ここにもロンリーハート (8)
文字数 674文字
優しくしみとおる声と同時に、タンバリンがそっと手に押しつけられる。
「ミランダちゃんに呼んでもらうのを待ってると思うよ、彼」
「そうかな?」
「そうだよ」
「どうしてわかるの?」
「わかるよ」微笑む。「そういうものだから」
「彼は来るよ。かならず」
「もし来なかったら」ミランダの思考の先をつづけて言ってくれる。「そのときはきっと何かある。危ない目に遭っているかもしれない、彼自身が。
それなら助けに行かないと。
こっちから相手のほうへ行く打ちかたもあったよね」
「うん」
シャカシャカタン、シャカシャカタン。「タン」で枠を軽く叩く。くりかえしていれば、相手のところへ行く道が開ける。
「おれはきみたち四人とも助けたい。
利用されてほしくないんだ。もう二度と。誰も」
「ああ、もう一人いたか。五人だった。
まああいつは後回しでいい。弁慶がついてるからな」
微笑んでいる。
「ミランダさん」
ふいに、ずっと黙っていたパトリシアが動いた。腕をのばし、ミランダを柔らかく抱きしめる。
パトリシアの肩にとまっていたチキ号は、ひらひらと舞い立って、頭上にふるえるような軌跡を描く。
「大丈夫。ね」
「うん」
体温の高い人だな。抱かれながらミランダは思う。
温かい。
二人(と一匹)に励まされて、ミランダはとうとう、楽器を手に取った。
かるく目をつぶり、息をととのえる。
(どうか彼に届きますように。どうか彼が、来てくれますように)
(だめ。よけいなことを考えちゃだめ。だめ)
(三郎)
(神さま。三郎に会わせて。どうか)
静かに目を開き、ミランダはタンバリンを打った。