未収録シーン:ここだけの話 つづき

文字数 1,315文字

☆その2

ハル「まあおれたちも調子(ちょ)づいてたとこあったけどね(ため息)」
クロ「あー」

ハル「あれね。『平家にあらずんば人にあらず』」

 正確には「この一門にあらざらむ人は、みな人非人なるべし」。
「人非人」が「出世できない」程度のかるい意味だという説もあるが、だからどうだという話だ。ちょづいてるには変わりない。

ハル「(うなだれ)あれ言ったの一人だけなんだけどね」
クロ「じつは清盛さんじゃないんだよね?」
ハル「うん。時忠(ときただ)叔父」

 (へい)大納言こと平時忠は、清盛の妻時子の弟。

クロ「えっ時忠さん」
ハル「知らなかった? っていうか何か問題が?」
クロ「……」(そわそわ)

クロ「時忠さん、ここ(シークレットガーデンパレス祖谷)にいないの?」
ハル「(冷淡に)いないよ。あの人はちゃっかり生き残ったから。勝手にしたらって感じ。何か問題が?」
クロ「……」(そわそわ)

クロ「(ひそひそ)じ、じつは」
ハル「(ひそひそ)うん」
クロ「おれ時忠さんからお中元もらっちゃったの」
ハル「なにそれ」

ハル「突っ返さなかったの?」
クロ「……」(しょんぼり)
ハル「突っ返さなかったんだ。受け取っちゃったんだ」
クロ「ご、ごめん」
ハル「何もらったの」
クロ「わらびもち」
ハル「わらびもち??」
クロ「ほんとごめん! おれ黒蜜きなこ系まじ大好物で」

クロ「でもそれで姉上にもめっちゃ叱られて(泣)『なんで受け取るかな?』つって」
ハル「そうだよ」
クロ(泣)
ハル「きみほんと空気読めないのな」
クロ「だって黒蜜きなこ」
ハル「あーもう」

ハル「時忠叔父、自分だけ生きのびて? 『わたし平家やめました』的な感じで?
それをまた『オトナの判断』とかって持ちあげる人たちもいるけど」

ハル「だったらいい歳してちょづいて、おれたち若者より?
『平家にあらずんば』発言。あれオトナのやること?
あの大炎上なかったら、たぶんおれたちもあそこまでバッシング受けなかったよ?」

ハル「まあいいけど」

ハル「食ったの? わらびもち」
クロ「……」(涙目)
ハル「食っちゃったんだ(あきれ顔)。おいしかった?」
クロ「ほんとごめん(泣)」

 義経は壇ノ浦の後、生き残った時忠に乞われて、彼の娘「(わらび)姫」を妻に迎えています。
 先に頼朝が世話してくれたお嫁さんがもういるのにです。
 これが頼朝の不信を大いに買い、兄弟の不和を加速させたと言われています。

☆その3

ハル「あとさ」
クロ「何(どきり)」

ハル「聞いたんだけど。なんか中学のときの、書道の時間の話」
クロ「ああっ! そんな、なんで知ってるの??」
ハル「平家(うち)のネットワークなめるなってこと(にやり)」

ハル「『好きな四字熟語を選んで書きなさい』っていう課題で」
クロ「言わないでっ(赤面)」
ハル「きみ『打倒平家』って書こうとして叱られたんだって?(にやり)」

クロ「あれはほんと、あれは! 文字どおり中二病だったから!(恥)」

クロ「でも姉者は『臥薪嘗胆(がしんしょうたん)』って書いて金賞もらったんだよ。
意味的には同じだよね?」
ハル「きみたち姉弟が性格合わないのわかる気がする」

ハル「けっきょく何て書いて提出したの?」
クロ「脱脂粉乳」
ハル(笑笑)

 個人的な話で恐縮ですが、このエピソードは半分実話です(わたくし作者の旧友の)。
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登場人物紹介

静/アリア(しずか/ありあ)

この物語のヒロイン。明るく素直で天然。特技は歌とダンスと水泳、ばかりでなく、雨を降らせる特殊能力を持っているが、本人はその重大性に気づいていないらしい。惚れっぽく、美しい者には見境なくフォーリンラブしてしまう。海霊族(ネレイド)。

源九郎義経/クロード(みなもとのくろうよしつね/くろーど)

アリアの恋人。天性の人たらし。身体能力、とくに跳躍力に優れ、お気楽な言動で周囲をふりまわす。ベンジャミンたち郎党からは「御曹司」と呼ばれている。アリアを熱愛する一方で、実姉のカミーユとぬきさしならない愛憎関係にある。樹霊族(ドリュアード)。

源由良頼朝/カミーユ(みなもとのゆらよりとも/かみーゆ)

クロードの異母姉。男装し、源家の嫡子として生きている。頭脳明晰で完璧主義。そのため破天荒な弟のクロードとは惹かれあいながらも衝突してしまう。父の非業の死により心に深い傷を負っているわりには、しばしばナイスなボケもかます。樹霊族(ドリュアード)。

阿野全成/アントワーヌ(あのぜんじょう/あんとわーぬ)

醍醐寺(真言宗)の荒法師。クロードの同母兄、カミーユの異母兄※。悪禅師(あくぜんじ)の異名を取るわりにはクロードの何分の一も暴れておらず、そんな自分の生き方(というかキャラ設定)に疑問を抱く毎日。樹霊族(ドリュアード)。

※史実では頼朝より年下ですが、このお話ではお兄さんに設定してあります。

源”悪源太”義平/ジャン=ポール(みなもとのあくげんたよしひら/じゃんぽーる)

源家九兄弟の長男。クロード・カミーユ・アントワーヌの異母兄。性格は豪放磊落。無念の死をとげ怨霊となるも、いまはお気楽雷神ライフを満喫中。アリアの熱烈なファンで動画のチャンネル登録をしている。樹霊族(ドリュアード)。

遥/ミランダ(はるか/みらんだ)

アリアの姉。妹思いでクールかつ熱血。特技はアリアと同じく歌とダンスと水泳。アリアとよく似た容貌だが、5センチ背が高い。アリアの行く末を心配し、クロードと引き離したいと願っている。海霊族(ネレイド)。

巴/パトリシア(ともえ/ぱとりしあ)


ミランダの新しい友人。一人当千の女武者(アスリート)で尽くし好き。恋人の木曽義仲を失い、彼の菩提を弔って生きていたが、正直たいくつしていたところだったため、ミランダとアリアの救出に喜んで参戦する。素はおちゃめ。土霊族(ノーム)。

平知盛/ヴァレンティン(たいらのとももり/ばれんてぃん)


平家の若き当主。物腰柔らか、文武両道の公達(きんだち)。巻一でみずから時の深淵に沈んだはずだったが、アリアとミランダの危機に急遽召喚されて浮上。巻三では活躍が期待される。クロードとは因縁の仲ながら、互いに親近感を抱いているらしい。樹霊族(ドリュアード)。

佐藤四郎忠信/クリストフ(さとうしろうただのぶ/くりすとふ)

アリアの友人(片思い中)。長身で俊足だが、内気で目立つのが苦手。「天性極信」(てんせいごくしん)、つまり「めちゃくちゃいいやつ」と広辞苑第五版にも書かれているが(「極信」で引いてみてください)、本人は一度でいいから「いけないひと」と呼ばれてみたいと思っている。下戸という噂あり。水狐(ウォーターフォックス)。

佐藤三郎嗣信/フロリアン(さとうさぶろうつぐのぶ/ふろりあん)

クリストフの兄。容貌・性格・身体能力ともにクリストフとよく似ているが、左肩から右脇腹にかけて貫通創あり(一度死亡)。巻二で晴れてミランダと両思いになった(おめでとう)。酔うと口が悪くなるという噂あり(酔わなくても口が悪いという噂もあり)。火狐(ファイアーフォックス)。

文覚/バルタザール(もんがく/ばるたざーる)


荒法師。俗名(ぞくみょう)、遠藤盛遠(えんどうもりとお)。荒海を一喝して静める法力の持ち主。カミーユとは中学時代からの先輩後輩の仲で、アリアとミランダとは江ノ電の中で知り合う。人情に厚く、弱い者を見ると放っておけず、敵味方関係なく義のために突き進む行動の男。その猪突猛進がしばしば波乱を巻き起こす。水霊族(ナイアード)。

薬師丸/ヴィンセント(やくしまる/びんせんと)


文覚の弟子。愛称ヴィン、ヴィニー。のちにカリスマ的名僧となる人物の少年期の姿。推定年齢十二歳前後(ヒューマノイド換算)。冷静沈着で、師の(ときに暑苦しい)かわいがりように迷惑そうな表情を見せているが、何のかの言って名コンビ。幻視および幻写という特殊能力と、天人にも見まがう美貌を持つ。風霊族(シルフィード)。

武蔵坊弁慶/ベンジャミン(むさしぼうべんけい/べんじゃみん)

アリアの友人。クロードの右腕。筋骨たくましい大男だが、冷徹な知性派でもあり、クロードの暴走をつねに(かろうじて)食い止めている。皆の精神的主柱(万年しりぬぐい役とも言う)。こう見えて料理男子。人馬族(ケンタウロス)。

平教経/ハロルド(たいらののりつね/はろるど)


平家ファミリー最強の戦士。ことに強弓は他の追随を許さない。肩書は能登守(のとのかみ)。素は気さくな好青年で、甥のアーサーを溺愛する叔父バカ。樹霊族(ドリュアード)。

言仁/アーサー(ときひと/あーさー)


平家ファミリーの秘蔵っ子。齢六歳の先帝。言仁は諱(いみな=本名)で、帝としての諡(おくりな=没後に贈られる称号)は安徳天皇。本人は「天のうをやめれた」ことを喜んでいる。樹霊族と龍族両方の血を引く「ダブル」。

畠山次郎重忠/ロバート(はたけやまじろうしげただ/ろばーと)

鎌倉幕府の重要御家人の一人。清廉潔白な人柄でカミーユの信頼厚く、「坂東武士の鑑(かがみ)」と称される。クロードやベンジャミンたちともかつて戦場でともに戦った仲。見た目しゅっとしているのに力持ち。人馬族(ケンタウロス)。

平清盛/リチャード(たいらのきよもり/りちゃーど)

平家一門のゴッドファーザー。入道相国(にゅうどうしょうこく)とも大殿(おおとの)とも呼ばれる。そのカリスマをもって一時は最高権力者の座に昇りつめるも、病に倒れ志半ばにして世を去った。いまは隠れ里のシークレットガーデンパレス祖谷を理想郷にすることに熱中しているらしい。ニット帽やハンチングの似合うお洒落なダディ。樹霊族(ドリュアード)。

平時子/エリザベス(たいらのときこ/えりざべす)

平家一門のゴッドマザー。若い頃から夢追い人の夫に尽くして苦労を重ね、彼亡きあとは気丈に子や孫を支えてきた。いまはシークレットガーデンパレス祖谷でのんびりくつろいで……いいはずなのだが、ついあれこれと皆の世話を焼いてしまい、いまだに気苦労が絶えないらしい。樹霊族(ドリュアード)。

平忠度/ウィリアム(たいらのただのり/うぃりあむ)

清盛の異母弟(末弟)。清盛の長男の重盛より年下で、世代的には知盛よりちょっと上くらい。肩書は薩摩守(さつまのかみ)。平家ファミリー屈指の歌人だが、文武両道で武芸にも優れ、しかも性格温厚でひかえめ。クロードをある重要人物とひきあわせる役をはたす。樹霊族(ドリュアード)。

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