ここにもロンリーハート (3)
文字数 1,252文字
ん? チョウチョの話をしてたはずだったんだけど、気のせいだろうか。
パトリシアこと巴ちゃんが追いかけていったチョウチョというのは、もちろん三人を乗せてここまで飛んできた巨蝶のことだ。名を、チキチキバンバン号という。
このネーミングセンスはヴァレ兄だな。
「チキ・チキ・バン・バン」、ハンバート・ハンバートのカバーが個人的にお勧めです。オリジナルのミュージカル映画も古き良きって感じで大好きでしたけどね。空飛ぶ車の冒険。
夢追いかけて 空へはばたく 世界一のくるま~
「チティ」
貴公子がすらりと手をのばすと、戻ってきた蝶がその長い指にとまった。
ここで読者は驚いてほしい!
チキチキバンバンじゃなくてChitty Chitty Bang Bang だったんです! 作者もついさっきまで知らなかったんです何十年間。もうー英語で言うなよヴァレ兄ー。日本人は舌噛むよふつう。
そこじゃなくて、
チティ号、くそ、変換するのも噛んでる私は何なんだ。チキ号は巨蝶だったはずなのに、いきなり通常サイズになってるのはどういうことかということですね。それは例のこの小説の設定で、ピンチイン(指でちっちゃく)できるんですね。
なんて都合よくできてるんだとお怒りのかた。どうかお聞きいただきたい。
作者はかねてより疑問なのだが。
ファンタジー小説でよく、ドラゴンや翼の生えたライオンなんかに乗って旅するじゃないですか。あれ、彼らのえさはどうしてるんでしょうね? 何食べさせるんでしょうか。草ならまだしも、肉や魚――魚! 水族館のペンギンご覧になったことあります? 作者は前に池袋のサンシャインで見たんだけど、あれガラス越しだとめっちゃ可愛いけど、そばに行くととほうもなく! 臭いんだよね! 生魚や生肉食べる子たちは臭いです。しかたないよ。でね、ペンギンでそうなのにドラゴンのサイズだったらどうなっちゃうかって話です。しかもですよ。たくさん食べるってことはたくさん出すってことだよね。龍のうんこ、とほうもない量だよねきっと。それ考えだしたら作者はしばらく夜うなされて眠れなくなったのだ。そのね、このね、龍は何を食べるか問題と龍のうんこをどうするか問題をスルーしてたいていのファンタジーは成り立ってるわけでしょう。その都合よさに比べたら、彼らをピンチインしてちっちゃくするほうがよっぽど理にかなっていると思いませんか。ね? えさもうんこもほんのちょっぴりですむんですよ。エコでしょう。持続可能でしょう。
ということで、三人を下ろしたチキ号はちっちゃくなって、ほんの数滴、花の蜜を飲みに行ってたのである。
たぶん、ごま粒くらいのうんこもすませてきた。いい子だ。
うんこ連呼してすみません。
「話終わった?」チキ号を追って戻ってきたパトリシアがにこにこして言う。
「何の」とミランダ。
「だから、ヴァレ兄さんがタピオカの屋台引いてきた話」
「聞いてないよ?! なにそれ?!」
そうだ何だそれは。作者も聞いてないぞ。