ロンリーハート (4)
文字数 1,006文字
「お願いがあって」
向こうも声をひそめている。
「九郎を追って」
一瞬、耳を疑った。
「え、追ってますよね? そちらで。全国規模で」
「うん。あの」歯切れが悪い。「こちらに見つからないように」
何。
とっさにスマホを手で覆って、もう一度あたりを確認する。
(いいのか電話でこんなこと。
そうか、文字通信だとかえって
心拍数が上がる。かかわらないほうがいい、と直感が告げている。
(断らないと)
(断ろう)
「おれでは大してお役に立たないと思いますが」こちらも小声で、慎重に言う。
「どういうこと?」落胆した声だ。「怒ってる?」
「違う違う」思わず力が入った。「大してお役に立たないけど、それでもいいですか、ってことで……」
まずい。何言ってるんだおれは。
これじゃもう引き受けてしまったようなものじゃないか。
「いや、だから」しどろもどろになるアントワーヌだ。「無理、というか。
おれいま正直、干されてて」
「そうなの?」カミーユはきゅうに心配そうな声になった。「どうしたの?」
「べつに。まあ、おれのことはいいですよ」
「よくない」真剣に言っている。「そっちで元気でやってると思ってたのに」
「元気でもないけど」しまった。「はは、元気ですよ」
「聞かせて。何かあった?」
こういうの──
やめてほしいな、とアントワーヌは思う。
(泣くだろ)
「アントン?」
「何でもないですって。ほんと」
やばいだろ、とアントワーヌは思う。このタイミングでこれは。この優しさは。
やっぱり、ついていこうかな、とか思っちゃうじゃないか。
「まあ、おれのことより。九郎が何か?」だめだ、スルーできなかった。
「ああ、うん。あのね」
そんな心細そうな声出すなよ。ほっとけないだろうが。
「
「どうしました」
「つまり、わたしの思ってたより──優秀で」
「よかったじゃない」
「よくない」
「どうして」
「九郎、本当に、つかまって殺されてしまうかもしれない。
どうしよう? アントン」
そういうことか。
狂言、か。
おかしいと思っていた。あれほど可愛がっていた弟に、一転して死の宣告。ふつう、正気を疑う。
だが、
(不和を装っていただけか。皆の手前)
それなら納得がいく。
納得はいくが、そのぶん話が複雑だ。