もっとロンリーハート (1)
文字数 733文字
冷たくはない。
夏の終わりの雨がぽつぽつと顔に当たる。大粒の。
陽に
(寝かせておいてくれ)
正直リープで体力を使いきった。いまは指一本動かすのもきつい。
少々濡れてもこの雨なら死なない。
(動かさないでくれ……このまま……)
(!!)
肩に激痛が走り、身をよじる。
誰だ。おれをずるずる引きずっていこうとしているのは。
脇の下にさしこまれた手をつかんで、はっとする。濡れている。
赤い。
「四郎。やめろ」
「兄者が、風邪ひく」
「おまえ傷が開いてる」
「そう?」
身を起こして、弟の瞳孔を確認する。
「まだ見えないのか」
「少しは」
(少ししか見えないのか)
おれより、こいつを雨に当てないほうがいいかもしれない。
「あそこの屋根見えるか。あそこまで走る」
首を動かし、顔を向けようとしている。
(見えてないな。音で確かめてるだけだ)
痛ましい。
「走れるか」
「わからない」笑っている。なぜこの状況で笑えるんだ、おまえは。「何かひも持ってない?」
「ひも?」
「ブラインドマラソンっていうのでロープ持って走るの見た、伴走の人と」
ひも。ひもはない。「おれがシャツ脱ぐからそれにつかまれ」
「わかった」
ボタンを外した。
だが、汗と血と雨でシャツがからだに貼りついていて脱げない。
無理に袖から肩をぬこうとするとまた激痛が走る。
「くそっ」
「兄者」
「何」
「きつねに戻ったほうが早くないか。おれ兄者のしっぽくわえて走る」
なんだそれは。
なんでそんなめちゃくちゃ可愛いこと思いつくんだ。おれいま、いや
「走るぞ」
「おけ」
数秒後、二匹の白狐は、無事に小さな木造平屋の縁の下にいた。