もっとロンリーハート (5)
文字数 792文字
白狐たちは木製のたらいで体を洗ってもらい、すっかりきれいになった。杉かひのきか、湯気が爽やかに香りたち、それだけで身も心も癒される気がしたものだ。
傷に軟膏も塗ってもらった。悶絶するくらいしみたが、そのあと嘘のように体が軽くなった。
で、いまは二人とも十代男子の姿に戻って、夢中で麦飯をかきこんでいる。
もし期待した読者がおられたなら気の毒なので、いちおう断っておく。二人ともすっぽんぽんではない。
洗いざらしたゆかたを着せてもらっている。バルタザールの私物だ。
バル兄は肩幅あって胸も厚いが、佐藤兄弟ほど長身ではない。だから彼の服を着た二人は、胴回りはあまるのに袖と丈が短くて、手足がにょきにょき出ちゃっている。可愛い。
「食え食え。もっと食え。うまいだろう」
身長三センチの極小バルタザール、自分のことのようにはしゃいでいる。
「炊いたのわたしです」
あいかわらずにこりともせずに美童が言う。
フロリアンは絶品麦飯をかきこみつつ、横目で少年をぬすみ見る。自分も弟も、この子の小さい手であっというまに清潔に快適にしてもらった。
(ミラクル)
あの地下壕で応急手当てをしてくれたマルティノを思い出させる。ただ、つぶらな目をしたマルティノが真珠のようだったとしたら、いま目の前にいる子はダイアモンドだ。透明ななかに秘めた強靭な意志の力。まだ子どもなのに。
(誰かに似てる。マル坊じゃなくて……誰だ)
「うまいです」とりあえず無難な話題に応じるフロリアンだ。「めちゃくちゃうまい。何ですかこれ」
「ははは。《天女の麦飯》だ」
「てんにょのむぎめし?」
「うん、タカオ名物《天狗の麦飯》ってのがあるんだが、そいつの上位バージョンだ。どっから説明するかな。てか、おれから訊いていいか。いまここどこだかわかってるか?」
つぎつぎとかきこんで口の中がいっぱいなので首を振る。
「タカオだ。おれのうち」