もっとロンリーハート (13)
文字数 1,394文字
「あっ」小さな声。
「なぁに?」こちらは笑いをふくんでいる。「お嫌?」
「嫌じゃ、ないけど」
「ないけど?」
「待って」
「やだもうお姉さま、可愛い。赤くなってる」
攻めてるほうが舞姫。
攻められてるほうが天下の大将軍だ。
「からかわないで」将軍が、はじらっている。「こういうの慣れてない」
「初めてなの? うそでしょ?」
「恋人つなぎ」
にっこり笑って、指をからめる。
うおおお。
作者、百合は初挑戦なんだけどこれまじで沼だな。はまる。
「わ……わたしは、ソファで寝るから」とカミーユ。
「そんなの嫌」とアリア。「ベッドに行きましょ。ね?」
「いや……」
「眠れないのでしょう。そう仰ってたじゃない。わたし、こうして」
握った手をそっと、胸に当てた。
あっ(フロリアンと作者の心の声です)。
「こうして、ずっとそばにいてさしあげます。お姉さまが眠るまで」
「わたしはどうせ眠れない」
「そんなこと仰っては、嫌。わたしまで悲しくなる」
「アリアさん」
「『さん』づけも嫌。アリアとお呼びになって」
「アリア」
「嬉しい」
おいおい。
考えたらこれ、盗撮だよね。誰が撮ってるのよ。恐るべし
「ええ、どうして? どうしてお泣きになるの?」
カミーユの表情は影になっていて見えない。おろおろとのぞきこむアリアの顔の上を、月明かりが行き来するだけだ。
「ごめんなさい、わたし、よけいなこと言った?」
「ううん」
「泣かないで。ね」
指でカミーユの涙をぬぐう。それを唇へ持っていき、吸った。
ああっ(フロリアンと作者の心の声です)。
「何でもないんだ。ただ……」
「ただ?」
「アリアは、本当にいい子だなと思って。それだけ」
「お姉さま」
「ずっとそのままのきみでいて。アリア」
涙ぐんだまま微笑んでいるらしい。
「きみは、わたしのようになるな」
「い……嫌っ」
今度は、アリアのほうが半泣きになる。
「どうしていつも、そうなの。どうして心を開いてくださらないの。アリアのことお嫌い?」
「そうじゃない」
「『そばにいて』って言ってくださったじゃない」
「ああ、うん」寂しげに笑っている。「そばにいて。もう少しだけ」
「なにそれ」
「きみが、わたしの正体を知って、わたしを嫌いになるまで」
「なにそれ!」
「ごめん」
はっきり、微笑んでいる。
「ずっとこうして生きてきたから。変えられなくて。
いつでも覚悟してるんだ。
去る者は追わない――と」
「去ってない!」
背を向けたカミーユに、泣いて後ろから抱きつくアリアだ。
「ねえ見て。わたしはここにいるのに。大好きだって言ってるのに。信じて」
「アリア」
「嫌。嫌」
ぎゅうぎゅう胸を押しつけている。
おおう(フロリアンと作者の心の声です)。
「お姉さまのお役に立ちたいの!」
「何もしなくていい」
「ひどい。どうしてそんなこと言うの。アリア死んじゃう!」
「ばかな子。わたしなんかのために」
「何かさせて。ねえ、こっちを向いて、お願い。何かしろって仰って。何でもする」
「何でも?」
「何でも!」
いつのまにかシルエットは反転し、二つの顔は向きあっている。
唇が、ほとんどふれそうだ。
「それなら、ひとつだけ――」
「なぁに?」
唇が耳にふれかけて、止まる。
「やっぱり、やめておく。忘れて」
「ああん、じらさないで! 早くして。ねえ早くっ」
ううむ。
どっちがより魔性なのかわからなくなってきたぞ。恐るべし鎌倉どの沼。