†捌† 特亜の交渉術
文字数 4,491文字
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
花雪が見張りを担当する中、二チームは空洞端の岩陰で情報共有を開始する————と言っても、此処まで戦い通しだった。
皆、疲れた様子で腰を降ろし、戦場で一息付く。
「はあ……」
ユエは姿勢正しい女座りのまま、窮屈な装備を外していく。締め跡が付いた二の腕、ふくらはぎ、太ももにマッサージを施していく。
ウェイは岩を枕にのけぞると、濡らした手拭いの下からオヤジ臭い声を漏らす。
「お゛ぉおお~……あったま痛ってェ~……」
元気が余っているのはこの女くらいだ。
「で? ウチら後から来たから、判らない事だらけだ」
正面に座ったヴァリキエは戦場を一瞥し、その視線を戻して返答する。
「我々南東が降りた時、奴は一人だった————」
水筒を乱暴にあおり、一息吐いて続ける。
「最初に第一波……十五人ほどが斬り掛かると閃光が放たれ、全員石になった」
「あの白黒の光か」
呂晶はヴァリキエの、早くもハッキリした口調に〝ムカつき〟を感じる。
(軍隊経験者……
騎士
ってやつか)二十一世紀の日本には存在しない国民を守る者。
在日朝鮮カルト、
『防衛費』など上げても価値は無い。要るのはカルトに洗脳された現・反日政府を打倒し、真・日本政府を立ち上げる『戦争費』。それは日本人たる我々自身が『武士』に戻るべく使う金。日本を白黒の真っ二つに分けた内紛は近く、だから岸田は焦って税金徴収を押し進める。
ちなみに『北朝鮮のミサイル』とは、現・反日政府が自身への批判を逸らすため、北朝鮮に日本国民の税金を献上し、日本に
撃ってもらっている
物だ。政府や在日朝鮮人が追及される度に何故かタイミング良くミサイルが飛び、統一教会のニュースも話題もJアラートと共に吹っ飛ばされる。
「おそらく
呂晶は人差し指を後ろへ向ける。
「性格ぅ? アレが化物って知ってるか? 手の内隠す知恵が無いんだろ」
「確証は無い────が、救助に第二波が続くと壁や地面から甲殻型が現れ、女型が補充されたのもその後だ」
「……!」
驚く呂晶にヴァリキエは続ける。
「子供の出現で救助は難航、混乱のなか二度目の閃光が放たれ、更に犠牲者が出た。南東は緒戦で半数を失った」
イエンがユエに通訳を求める。
「何と言っているのだ……?」
「白霊は今いる子供を、閃光を放った後に展開した」
「驚くことはあるまい。敵が来て慌てたのだろう」
「そうかもしれない……けど、
丸腰を装い包囲した
とも考えられる」〝
「馬鹿な……アレが化け物と知っているのか? 人に化けても知性は真似できん」
呆れるイエンに、ユエは呆れた声を返す。
「どうかしら。〝黒い閃光〟なんて、アナタに近いレベルと思うけど」
「なに?」
ウェイがイエンを窘める。
「おい、
クロセン
。静かにしてくれ」「……どういう事だ?」
イエンの理解が進まぬままヴァリキエが続ける。
「それで大方の射程は判ったが、以来、それ以上近付けず決め手が無い。我々はヘレンの大規模魔法で仕留める算段を立てた————」
呂晶はヴァリキエの斜め後ろ、小岩に上品に腰掛ける少女を睨む。
「────が、魔力を集中すると奴と奴の子が反応し、標的にされる。よって可能な準備だけ進め、安全を確保次第、発動するつもりでいた」
そこまで聞き、呂晶が口を挟む。
「ウチらを囮にしてか? コイツに反応するなら、コイツを囮にすれば良いだろ」
「————ッ!」
指差されたヘレンが睨み返す。『昨日の続き』を始めそうな雰囲気だ。
イエンは再度、ユエに通訳を求める。
「なんと言ったのだ?」
「〝あの子を囮にしろ〟って」
イエンは呂晶を指差す。
「おまっ……! こんな可憐な少女に、よくそんな事が言える!」
ヴァリキエが返答する。
「彼女は我々の切り札だ。最優先で守る」
「……」
ヘレンは拗ねたように目を逸らす。〝今更そんなこと言っても遅いのよ〟という乙女心だろうか。
「栄光の勝利に犠牲は付きものだ。批難されようと作戦を変える気は無い————もっとも隙を作る前に、
我々以外
が全滅しそうな有様だが?」開き直ったヴァリキエに、ウェイと呂晶はお互いを見ずに声を交わす。
「呂晶」
「判ってる」
この降下作戦では、白霊の首級を挙げた一班に多大な報奨が贈られる。
まずは〝褒賞金〟だが、元々様々なシノギをこなしている
魅力があるのは〝武官職〟つまりは〝国家官僚〟の地位。『ヤクザがNHKを創設して国民から税金を徴収する』といった事が小規模ながら出来るようになり、手の届く範囲────つまりは〝縄張り〟の中なら無法なことが合法で出来るようになる。『NHK職員が一般家庭を訪問して恫喝して金銭を巻き上げる』といった事だ。この〝武官職〟とはウェイが心の師から譲り受けた夢でもある。
更にはその〝縄張り〟として、小さいながら〝領地〟さえ与えられる。
違法な物品や奴隷を取引する闇市なり、未成年を働かせる遊郭なり、古代ローマのような賭博闘技場なり、とにかく無法な事は莫大な利益となり、それらを可能にする〝無法地帯〟こそが武侠達にとっての憧れの〝領地〟だ。
これら
限られた褒賞
こそが、各隊の連携を妨げる要因になっている。更には『討伐傭兵の拠出は各結盟から五人まで』という規定────
ウェイを頭領とした五十人で構成される〝真夜中の旅団〟でさえ、呂晶ら五名だけを選抜せざる得ず、他の結盟も同じように五名だけを傭出している。今だけ仮の結盟を作り、二隊以上を送り込んでいる────という邪法を行っている者達もいないではないが、とにかく、普段は裏社会で姿を見せない気功武侠結盟の、ほぼ全ての代表者が参加している。
〝同盟関係〟の結盟もあれば〝敵対関係〟の結盟もあるし〝絶賛抗争中〟や〝何時かの復讐対象〟さえもが一同に介している事になる。
そんな者達に〝限られた褒賞〟など競わせればどうなるかは、連携以前に火を見るより明らか。ここまで来られたのが既に奇跡のようなものだ。
(一班で討伐する力を持つのは
ウェイ隊も勿論、一班で
(もうちょいすりゃ〝協調しよう〟て連中も出るだろうが、数隊で連携しても状況は変わらないどろころか、むしろ————)
いま情報提供を迫れているのも、他隊を囮にしていた負い目に付け込んでいるから。
そもそもこの〝ローマチーム〟とは武侠達にとって共通の厄介者。公的な彼らが褒賞を得たところで裏社会の者達には何のメリットも無い。喜ぶのは武侠を嫌う孫玄くらいのもの────
けれど、帰還の見込みが薄れるほど、ローマチームは『希望の星』になっていく。他隊も命のためなら囮くらい喜んで引き受けるようになる。だからヴァリキエは〝
(コイツ、最初から予想してたのか……軍隊が手に負えない化物を
〝昨日の一件〟で、ローマチームの一段上の強さは垣間見た。なのに今まで出しゃばること無く、功を焦る様子も無く、妙だとは思っていた────まるで、お手本のような〝能ある鷹はなんとやら〟だ。
もう、こうなればローマチームに恩を売り『報酬のお零れをもらう』という方向性が最善だが、
(今、必勝の策を持つ
強気の外交姿勢だけでは、二階俊博、茂木敏充、与党、野党、テレビ局、アニメ業界、ゲーム業界、新海誠、ホロライブのように懐柔させることは出来ない。『何かしらのメリット』を提示しない限り────
すると、見張り役の花雪が顔を出す。
「おい! アイツ、剥がれたとこ千切ってバラ撒きおったぞ! ……────あっ、なんか動いとる!」
呂晶は後ろに親指を向ける。
「子供の発生条件って、アレだけ?」
「二種類ある────下半身から産み出したものが女型、散った鱗が成長したものが甲殻型だ。前者は迎撃以外では前に出ず、後者は焼いたり凍らせた傷からは産まれ難い————が、そもそも精霊の効きが悪い」
〝精霊〟とは彼等で言うところの氣孔全般を指すのだろう。
「無限に湧きそうな感じ?」
「どちらも産む際に体力を消耗している────が、それでも無限と大差無い」
「あっそ、石化の射程距離は?」
ヴァリキエは白霊から五十メートルほどを指す。
「白霊を中心に、半径はあの死体までだ。高さは知らん」
よく見ると、死体の内と外で地面の色が違う。こんなクラブハウスのような光の下で無ければ違いはもっと明確なのだろう。
呂晶は岩陰から顔を出し、その遠さに弱気になったのか、本音を漏らす。
「
的が巨大で感覚が狂うが、遠距離外功の有効射程を越えている。威力減衰は免れず、そもそも氣功の効きは悪い。撃つだけ体力を消耗するというものだ。
「あーら、可哀想————」
呂晶の焦燥を見逃さず、ハスキーで低血圧な独り言が割って入る。
「お猿さんは足だけで無く、攻撃の手も短いのですわね」
呂晶は声の先を睨む。
「今、なんつった。
小便頭
」ヘレンも目だけで睨み返す。
「
更に、見下すように手を広げる。
「手も足も出ないのでしたら、毛繕いでもされては如何? ワタクシ達、お猿さんと遊んでいる暇はありませんの」
「急いでも遅せーよ、もう頭から漏れてる」
「ええ……ワタクシ達、肌ではお花が摘めないもので……あぱぱぱ、我慢される必要はありませんのよ? 文化の違いですものね」
「悪ィけど、あっち行ってくんねェ? そこは目に色が付いたヤツは座っちゃいけない決まりなんだ。岩に色が付いたら大変だろ?」
「いい加減にしろ————」
ヴァリキエはヘレンを窘め、呂晶に向き直る。
「射程は、こちらも似たようなものだよ」
「なんですって!?」
ヴァリキエの発言は場を納める配慮ではあるが、本音でもある。
けれど、ヘレンにとっては心外のようだ。
「はあ……」
「うーん……」
この期に及んで
軽口を叩ける雰囲気でも無いため、だんだんと〝終わったら教えてくれ〟という気分になってくる。
「
石化を解く方法は
?」「「 ……! 」」
それでも、その言葉には全員が注目する。