†プロローグ† シルクロード
文字数 1,340文字
私の真理は怖ろしい。と言うのも、今まで嘘が真理と呼ばれてきたから────あらゆる価値の転倒。それが私の方程式である。
ニーチェ
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ゴビ砂漠────恐竜の化石が発掘されることで有名で、世界で四番目に大きく、日本に黄砂を飛ばしてくる迷惑な砂漠。
この砂漠で古来から多くの民族が物流を繋ぎ、それはいつしか
けれど、中世にはその地位を海路に奪われ、
その衰退した荒野を一望できる
「生き残ったから、良かったものの……」
女はいつものように〝リスクとリターン〟を計算する。今なら冷静に振り返ることが出来る────何の意味も無かった。
「もし、死んでいたら……っ!」
何の
「生き残った────?」
理性はとっくに〝無駄な努力〟という解答を導き出している。
「生き残ったから、何だってんだ……?」
その解答を導き出しておきながら、
「死んでいたら、何だってんだよォォォッ!!」
その解答を導き出した自分を
「死に尊厳なんて無いッ!! 生きることは常に醜いッ!! 私は〝何か〟のために命を懸けて戦ったッ!! たとえ生き残ろうが死のうがッ!! アイツを殺せようが殺せまいが────……ッ」
その女には、自分の感情よりも————優先する物がある。
「私が
正しい事
をしたのに変わりは無いんだよ!!!!」正しい事をしているのに、
「アタシは…………アイツを────……っ」
なぜ世界はこんなにも、自分に厳しいのだろうか。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「
祁連山脈を南に見上げる、シルクロードの砂漠道。
十代の娘達が〝何か〟に砂を掛けている。
「ダメ、
「ふざけるなァッ!
これ
を誰かに見られたら、〝楊貴妃の現代転生〟と名高い容姿を狂気に歪ませ、必死に砂を掛けている。
十八歳の小娘が盗賊に恐怖する、在りのままの姿。
「とにかく砂を……砂をかけるのじゃ!」
その顔は涙と血に染まっている。
「クソォ……! アイツさえ来なければ、アイツさえ来なければ……っ!」
その様子を見守る〝ユエ〟と呼ばれた十八歳の女剣士。
「……」
彼女は〝ある物〟を通し、花雪を見つめている。
(死んだ者、殺した者……次にこの地を通る時、ほとんど骨となったそれらと、この子はまた目を合わせることになるだろう────)
片方が割れた〝眼鏡〟
(この子が死の恐怖に立ち向かうには、まだ早過ぎる……)
その中の、真っ赤に充血した瞳で、花雪を見つめている。
「大丈夫……大丈夫だよ、花雪。私が叶えてあげる……」
ユエはもう一度、穢された花雪を抱き締める。
「アナタの願いは、私が叶えてあげるから────」