無知の自覚
文字数 3,789文字
自身の無知を知る者は、知らぬ者よりマシである────
ソクラテス
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
一歩も譲らぬどころか、踏み込んで潰す。自分が許さないのではない、それが許されない事だから。
汚物のように塗り固められた嘘を剥ぎ落とし、世界を正常な世界に戻す。それでようやく〝正常〟なのだ。
理想を求めてなどいない。異常な
「その〝本能〟がある奴と、無い奴で生存競争して……ある奴が生き残ったんだろ?」
呂晶の只ならぬ様子に、ウェイは『冗談で濁さず話してやろう』と続ける。
「────それは結局、〝ある奴の方が強い〟って事になるぞ」
全く興味は無いが、コイツにとっては挟持なのだろう。自分が掲げる〝天下布武〟のように。
「ああ。そうも言える……だが〝
真理
〟に届いてない」その言葉に、ウェイは怪訝に問い返す。
「神様嫌いのお前が宗教やってたとは……意外だな」
それは呂晶が一番言わなそうな言葉だからだ。
「違う。アイツらのは偽物、アタシのは文字通りの意味────理論的な真実」
人々がこの〝真理〟という言葉に抱いているイメージすらも、呂晶の中では〝塗り固められた嘘〟のひとつだ。
ウェイは深く聞かずに話を戻す。
「……で、その真理ってのが、大切な物を守る以上の〝パゥアー〟を与えるのか?」
「力なんて与えない。ただ真実ってだけだ」
呂晶は即答するが、ウェイは首をかしげる。
「いよいよ判らんな……お前、言ってることは矛盾してるぞ?」
〝漲るパゥアー〟の正体は〝本能〟であり、『本能がある奴の方が強い』と言えるが、それさえ上回る〝真理〟とやらは『力など与えない』と言う————まるで謎々だ。
今度は呂晶からウェイに問い掛ける。
「家族や仲間を生贄に捧げれば、〝
今より強い力
〟が手に入るとしたら?」今度はウェイは即答する。
「そんなワケあるか────力は与えられる物じゃない、お前がそう言ったばかりだ」
「
逃げんな
、仮定の話だ」(ムッカ……!)
訳の判らないことを言い出したのは呂晶なのに────だが小娘に〝逃げるな〟とまで言われ、大の男が黙っていられるものか。
「甘いぞ、呂晶————それでも〝
捧げる前
〟の方が強い」呂晶はクイズ番組の司会者のように続ける。
「その理由は?」
アラサーのウェイは『えっへん』という調子で答える。
「一人で戦うより
複数で戦った方が強い
からだ————どうだ? 負けを認めてもいいぞ」『力を得るには犠牲が必要だ』と説きたかったのだろうが、そんな誘導には乗ってやらないのだ。
さあ、予定通りに行かず
「じゃあ生贄にしたら、〝
複数で戦うより強い力
〟が手に入るとしたら?」ウェイは目と口を大きく開け〝信じられない〟という顔で言う。
「おまっ……ズリーぞ!
後出し
なら何でもアリじゃねぇか!」呂晶はウェイを見ずに即答する。
「
それが正解だ
────アタシらは本能で偶然、勝ち残っただけだ。本能は最善の答えじゃない」ウェイは〝究極の二択〟でも迫られたとばかり思い込んだが、呂晶にそんな思惑は毛頭なく、ウェイの回答如何によって解答を変えるでも無く、最初から『後出しこそが最強』と説明するつもりでいた。
単に
ウェイのレベルに落として
説明しようとし、けれど、どれだけ落とせば良いか判らないため、適当に〝今話している事〟で例えたに過ぎない。けれど、その配慮が結局、こうして話を混乱させる。知能レベルが離れた者同士で会話が成立しない理由のひとつだ。呂晶の知能レベルではほとんどの者と会話は成立しない————どちらが上で、どちらが下かは判らないが、ウェイは再び顎鬚をいじる。
「なるほど……話が見えてきた」
たとえ〝最強の力〟が手に入ろうと、人間は大切な者を生贄になど出来ない。理由は『そういう奴が生き残り、そうでない奴は滅んだから』
よって各地に伝わる〝若い女を生贄に捧げる伝説〟とは、過去の男を貶めるべく創作された、もしくは〝ギャオン激しいおフェミ豚〟を処刑した話でも後世のマザコン歴史家が歪曲させたものと推測できる。
男は若い女を生贄にするどころか守り、その女は若くなくなるまでしっかり生き、おフェミ豚になれば村の男を貶める噓を
それら〝人間の本能〟とは、そのまま人間の〝限界〟を表す————ウェイが朧げに得た
「〝人〟より強くなるのは簡単だ……人が持つ本能を
上回れば
いい」これも呂晶なりの意思疎通なのかもしれない。ウェイを人間のサンプルとしての。
「それがお前が言う、〝真理〟ってやつか……」
ウェイや
人との繋がりを否定する呂晶も結局、彼らのおかげで、こうして世界に真実を伝播できる────呂晶も人間の本能を乗り越えられて
いない
。「そういうこと────腹が減れば飯を食う、悲しければ涙が出る。それと変わらない生理現象を〝漲るパゥアー〟とか抜かしてるお前は、
世界に嘘を流布してる
」ウェイは怪訝に問う。
「生理現象だと……〝大切な物を守りたい〟って気持ちがか?」
呂晶は即答する。
「お前が言ってる事は、〝自分に利益がある奴だけ優遇します〟って言葉を、共感が得られそうな言葉に言い直してるだけとは思わないか?」
「いや、そういう訳じゃ────……」
呂晶の即答は、ついにウェイの言葉さえも遮る。
「
大切な奴しか守らないんだろ
?」「……っ!」
まるで写輪眼だ。目を見開いたウェイに呂晶は尚も続ける。
「優遇ってのは、それ以外への差別だ。お前は武官どころか政治家に向いてるよ」
政治家は日本国民から税金を搾取し、特亜に日本を売り、日本国民への敵対行為を行いながら、日本国民から信望を得るという職業である。
敵対行為を行いつつ、信望を得る────この相反する事象をどれだけ広げられるかが政治家であり、貴族であり、大名である。麻生太郎も煙草の値段を三倍にした処刑すべき悪にも関わらず、日本国民からの信望は高い。これを俗に『器のデカさ』などと言い、自身のそれを見誤ったのが〝ビニール教祖〟こと小泉進次郎だ。〝オウム〟は処刑されたのに進次郎は生きているのが、日本人のヘタレ具合の顕著な例だ。
「そりゃ、強引に言や、そうかもしれんが────……」
「〝かも〟じゃない。それが真実で、それ以外は全部嘘だ」
また呂晶が写輪眼を発動する。
「あのなァ……」
ウェイが眉間を抑えても、呂晶は口を閉じない。
「別に、アタシは差別を否定してる訳じゃない────差別を〝差別じゃない〟って言い換える偽善者が嫌いってだけだ。ムキになんなよ
偽善者
」「……っ!」
ムカつく言葉にいちいち反応していては話が進まない。優しいウェイは眉間を引っ張り、溜息と共にストレスを抜く。
「はぁ~~~……」
人と価値観が違う呂晶、
人の本能と違う道に進む呂晶、
人でなしの呂晶。
そんな呂晶の気持ちでさえ、ウェイは〝理解〟を試みる。
誰にも理解されないのは、とても悲しい事だから。
きっとコイツの中では────
コイツは悪人では無いだろうから。
「ふぅーーーっ!」
自分にそう言い聞かせ、一息吐いたウェイが問う。
「本能が真理じゃないなら、何でそんなに本能が好きなんだ? 嫌いな神にやたら詳しいのと同じか?」
「……」
呂晶は初めて、少し間を空けて返答する。
「……上回るなら理解しなきゃいけない。どうしてそうなったか、全部理解して、全部ねじ伏せる答えを————」
哲学者は手綱を握り、この世界を睨み付ける。
「だから真理は
最強
だ……!」人間の本能を上回れれば、確かに最強になれる。本能は〝人間の限界〟なのだから。
けれど〝限界〟とは即ち〝上回れない〟という意味である。
呂晶の言うことは────いいや、呂晶の
やろうとしている事は
結局、矛盾していて────呂晶も自分自身の限界を感じ始めている。「……」
ウェイは少し押し黙った後、
「もしも……」
言葉を選ぶように、ゆっくり問う。
「もしも、お前が得た真理が────……
お前の意に反した物
だったら、どうすんだよ?」理解も共感も出来ていないが、呂晶に合わせたような言葉を使う。お互いの知能レベルが離れている以上、僅かな共通項で話すしか会話が成立する見込みが無いからだ。
どちらが上で、どちらが下かは判らないが────ウェイはあえて〝究極の二択〟を迫る。
「もしも〝最強の力〟を得る代わりに
親を殺すしかなくなったら
……お前ならどうする?」腹が減れば飯を食い、悲しければ涙を流す。生を全うするあらゆる
悲しいことを『悲しい』と認識し、時に涙を流して思い出し、悲しいことに通じる道を道徳的に回避し、進まねば、人間は死ぬ。〝本能に逆らう行為〟とは〝今まで死んだ不正解者の道〟であり、それを理解した上で、それをどこまでも進み続ける行為とは————
死ぬより辛い道である。