†mob達の花雪商隊解説④† ケンタウロスの倒し方
文字数 2,389文字
そんな訳の判らないことを言う人は、愛以外も伝わっていないと思う————
言うのじゃよ。しかも情熱的に。
仮に伝達度が〝三分の一弱〟と判明しているなら〝今伝わっている三倍強〟と言えば済む話————
やめよ、それ以上追い詰めるな。彼のマイハートはとても繊細じゃ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
呆れる護衛に同僚は続ける。
『会長も〝そのデータは時代に即しておらぬ〟〝盗賊が隆盛していたのは十年前じゃ〟って反論した————だが』
『だが?』
『〝反論を裏付けるデータは?〟と言われ、出せなかった。なんたって
『反論のデータを集めようとすれば、反論の反論まで準備されちまう訳か』
『まあ結局、決め手は賊の襲撃だったけどな』
護衛は呆れた顔を向ける。
『そんだけ話し合って、襲撃で決まったのか?』
『その話してた行商中、待ち伏せてた賊に襲われた。その賊を仕留めたのはなんと、輜重兵の
『どうして輜重兵が────いや』
いくつか疑問が湧くが、最も気になることを聞く。
『輜重兵の弓手が殺ったなら、
会長の目論見通り
じゃないか?』護衛と輜重班を統合したかった花雪にとって、輜重兵が自衛を果たしたケースは自身の主張を後押しするデータだ。けれど同僚は首を振る。
『殺ってはいない、腕に命中させた。殺ったのは次に当てた護衛の弓手だ』
『だが、
『その輜重兵はその後、こう報告してた————』
同僚は背筋を正して言う。
『〝皆様、狙いに難儀されていたようで……差し出がましく思ったのですが、命には変えられないと想い、出しゃばらせて頂いた次第です————
馬車の上って狙い易いですから
〟』護衛は怪訝な顔をする。
『ずいぶん、謙虚な新人だな……』
『ああ。何で輜重兵なのか分からないくらい、腕が良い奴だ。だが、他の弓手が狙いに難儀してたのも事実だ』
『迎撃したけど外した連中が、沢山いたのか?』
同僚はその情景を思い出す。
『ああ。ソイツらの矢は全部外れた。〝こりゃダメだ〟って思った時にソイツが当てて、とどめを刺したのは
下馬した弓手
だ』気功家と言っても実戦経験を持つ者は少ない。刃物を持った暴漢に襲われればトラウマになり、それを制した味方は英雄にも映るだろう。
『外した連中は
馬上
から撃ったのか』『俺たちは遊牧民じゃない。馬上から撃つなんて、やったことも無いからな』
『
流鏑馬は長らく祭事としても行われているが、射抜く距離はせいぜい数メートルであり、弓を使う意義の大半を喪失している。
馬上から射ることは難しく、特に右翼の護衛弓手は
迎撃時に左側通行を強いられ
射角が取り難い。流鏑馬も右側通行から左側へしか放たず、ファランクスの最右翼以上に騎射は左側通行が弱点である
。一方、馬
車
を運用するそもそも
『それから護衛————特に弓手は、乗り降りし易いよう装備は弓矢だけ、弓隊も大増設だ』
『接近戦で迎え討ってたら死傷者だらけだもんな。大所帯ほど弓隊が最適だ』
『弓隊を主体にした頃から〝不敗の安全神話〟てブランドも広がったんだ。傘下や出資者も一気に増えた。今も尚な』
花雪商隊の中核は積荷を積んだ『馬車隊』機動性を無視した列車要塞的思想で成り立っている。よって、当初は
それでもやはり『遊牧民でも無ければ弓兵は下馬して弾幕張った方が強いよね』という事になり、現在は下馬して放つ弓隊式が花雪商隊の基本である。
『弓隊の一斉射は見た目の信頼感もデカイよな。俺も感じるよ、矢が〝ブワーッ〟て飛んでいく時〝一体感〟てやつを』
『そんで、俺も剣から
同僚と護衛は、どちらも弓を背負っている。
『〝賊を追うな〟って掟も、その頃からか?』
『そいつは最初からだったらしいぜ。その時も仕留めたのは一人だけだったしな。あとは逃げてったよ』
護衛は顎に手をあてる。
『ウチを襲った賊を逃がしたら、他が襲われないか?』
『襲われるさ────だから俺らの利益が伸びる』
『傘下が増えたのは、そういう理由か……』
『カタギの
『河西回廊で行商してるの今、ほとんどウチだけだもんな』
『それで、面白かったのがよ────この体制にした後、副長が言ったんだ。〝そう言えば、一度の敗北で倒産した商隊がいないのは
全滅して行方不明だから
、倒産申請がされてないだけじゃないか〟って』『自分で出したデータだろ? 後になって、自分で否定したのか?』