†みんな仲良く世界平和†
文字数 3,021文字
平和とは、戦争と戦争の間の準備期間である。
アンブローズ・ビアス
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
日焼けした筋肉にタンクトップと手拭いを纏う、蘭州渡舟組合
『がっはっはっは、すまんなっ! 象の重さで船床が軋んで、毎回直すのが大変なんだっ!』
棟梁が腕を広げた先に見えるは蘭州の西岸港。そこには大小の輸送船が十数隻と、海にも乗り出せる特大船が二隻係留されている。
花雪も力強く、蘭州西岸港を指差す。
「ふざけるな────ッ!! それはお前達が、この船を他にも貸しておるからじゃろうが!」
この特大船は二隻とも、花雪象印商隊が所有する船だ。
多大な積載量、タラップによる接岸能力、喫水線を調節するバラスト機構、船壁には矢を一方的に撃ち込む
予備まで拵えられた理由は
偶然
なのだが、ともかく渡船には勿体無い性能であり、メンテナンスには相応の手間が掛かる。『コイツを使う商隊なんてアンタらくらいさ。それに、貸すのも承知で提供したのはお前さんだろう?』
棟梁の〝あやす〟ような態度に、十八歳の小娘はますます激昂する。
「それは、妾の行商に支障が無い範囲でじゃ!」
船の係留には維持費が掛かる。花雪は『レンタル可』の契約でそれを相殺させているのだ。
その花雪は棟梁に一歩踏み出すと、白魚のような指先をぶ厚い肩へ突っ込むと、小さく怒りの声を放つ。
「お前達が、コレを〝軍〟に貸しておることを、妾が知らぬとでも思っておるのか……!?」
蘭州の黄河とは、宋と西夏の『国境線』である。この特大船は『軍船』として利用可能なため、もっぱら蘭州を領土とする宋軍に徴用されている。
そして時には
西夏に貸し出すこともある
。『そう言われても、維持しているのは俺達だ————』
花雪隊のもたらした好景気により、宋と西夏の戦闘は沈静化した。それは両国の一般人が『戦争中』であることさえ忘れるほどに。けれど現在、両国はこの地に多額の『税金』を投入。米軍基地よろしく砦を築き、睨み合いを続けている。
『交渉したいなら何日でも泊まっていきな。こっちも
長い目で
対応しよう』市民がとう思っていようと、蘭州は
戦争最前線
である。その蘭州が好景気を迎えた理由も『戦争』と『税金』あっての物種だ。木材需要、職人需要、食料需要、渡河需要————東北と関東が戦争になれば、栃木の鬼怒川でさえ重要拠点に返り咲く。鬼怒川も元々、そういう理由で発展した地域だ。
蘭州とは宋と西夏、どちらにも味方して
せびる
、21世紀で言えば台湾や沖縄のような『売国奴』である。雄大な自然の実態は腐海のように醜い。だからこそ花雪は、余計な憎しみも顕わに反論する。
「貴様らは……行商が長引くほど、妾の損害が増えると知っておろうが!」
その花雪率いる行商隊も、宋と西夏どちらの味方でも無い。時事と景気に合わせ、手を変え品を変え、法の隙間を突き、どちらの国からも毟り取る。
蘭州の地理的価値が高騰するほど
蘭州を通る行商品の値も高まる
。商売人はそういう所を見逃さない。敵と言うなら行商をやり辛くする全てが敵であり、売国
度
ならば負けていない。『それは、そちらの事情だろう。こっちにもこっちの事情があるってもんなのよ、お嬢ちゃん』
棟梁と花雪は『お得意様〝同士〟』であり、自国に忠誠を尽くさぬ『売国奴〝同士〟』でり、憎き『商売敵〝同士〟』でもある。
「戦争特需にこびり付く地方土方が、妾と対等にでも成ったつもりか……?」
世界にはこの利害関係がA~Dどころでは無く、
AとBの対立を煽る
媚びていた
そんなことも知らず〝
これらが五芒星、六芒星、無限芒星の如く絡み合っているのが『国』であり『世界』である。
人間はビリヤード台に敷き詰められたボール達。どれかが成り上がろうと動けばボールは弾かれ、押し出され、それは多くのボールを弾きながら因果関係さえも判らなくなり、成り上がろうとする者へと跳ね返り、またそれが多くの方向を変える。
自分で動かなければ徐々に外側へと弾かれ、やがては『世界の端の滝』から落ちて死ぬ。
そんな世界で〝みんな仲良く世界平和〟とはよく言ったものである。
『まあまあ、そう怒りなさんな————』
首里城は240億円もの『税金』で建設された。首里城が燃える度、沖縄人と
ステマに踊らされた心優しい
馬鹿
が寄付したあの金は首里城には一円たりとも渡らない
。城に意思は無く、城はお金を使えないのだが、馬鹿にはこの当然の理屈さえも理解できない。上納された寄付金は全て、首里城の炎上商売をしている『沖縄人』と『台湾人』へ渡る。だから沖縄人も、台湾人も、ハイサイ探偵団も、首里城の再建と募金の必要性を訴える。
日本の世界遺産に放火したがっている特亜人だって沢山いる。
首里城とは彼らにとって共通の
燃えて欲しい城
。燃えて損をするのは火を見るより明らか
だ。誰かが儲ければ、誰かが損をする。不景気とは『生産しない者が生産している者から搾取している証拠』であり、彼らもその
『────お前さん達も沢山稼いでいるんだろう。
我々がそれを知らんと思ってるのか
?』この棟梁は、積荷を向こう岸に渡しているのだ。中身が何か、それが生み出す利益も知っている。
「足元を見ている事を、隠しもせぬか……」
これは花雪隊にとって由々しき事態である。商談が纏まらなければ此処を渡ることは出来ないのだから。
とは言え、向こう岸に渡る方法は他にもある。
けれど、今からそれをすると、値上げされた以上の損失が出る————そんな絶妙な値上げ幅。意図して行っているのは明白。
「良いのじゃな……渡し業を行っておるのは、貴様らだけでは無いのじゃぞ……!」
けれど花雪も、多数の
「たとえ、
この渡し場が無くなろうと
────……」損害を出されれば報復も
マフィアを舐めたツケは高く付けねばならない。
けれど蘭州も武侠、軍隊、ひいては蚩尤のような
『そうか。だったら————』