†超能力者の恋愛事情②† イケメン
文字数 1,647文字
粗暴なナンパ男には肩を叩きながら、刃物を振り回すヒス女の手を握り矛を下げさせる。
飄々とした出で立ちだが、馬も真っ二つにする大刀を包丁のように扱う
『喧嘩なんて止めときなって! 俺ら、味方同士だろ!』
呂晶は割って入ってきた男を睨み付け、
「なんだァ、テメェッ!! テメェも、ぶっ殺され……ってぇ……の…………か」
激しく後悔する。
(ふざっけんなよ……コイツ…………
滅茶苦茶イケメンじゃねーか
!!)ウェーブの掛かった肩まで伸びた髪。男にしては白い肌。ペルシアかもっと西、アーリア系との
ハーフ
であろう、この髭を『朝チュン時』に指でなぞってイチャ付き————
〝伸びて来たから、そろそろ剃ろうかな〟
〝えー、じゃアタシ剃る〟
〝お前、そんなこと出来たのか〟
〝えー、アタシ刃物の扱い上手いんだよ〟
などという細かい
この男をゲットすれば、全ての雌共が嫉妬と羨望の眼差しを自分に向けるだろう。とにかく文句無しのイケメンだ。
そのイケメンの腕を粗暴なナンパ男が振り払い、忠告する。
『チャラ男はすっこんでな。俺は、女の癖に矛なんか使ってるコイツに、今から稽古を付けてやんなきゃなんねぇ』
もう後に引けない呂晶も、汚い言葉で続ける。
「よく聞きな、カス————どうやら教養が無さ過ぎて、アタシがエモノを抜くまで待ってやってる事が判んねーらしい」
けれど、心の中は後悔で一杯だ。
(あと少し……あと少し、ぶりっ子を続けていたら……!)
このイケメンは『喧嘩の仲裁者』では無く、ナンパに困る自分を助ける『
こんなに喧嘩っ早くて、汚い言葉を吐く女を好きになる男なんていない。全てこのカス野郎が悪い————
粗暴なナンパ男は再び曲刀を抜こうとする。
『舐めやがって……もう女でも容赦しねぇ』
その手を上から抑え付け、イケメン男は悲し気に首を振る。
『判ってないなァ————お前さんは、地雷を踏んじゃったの』
粗暴なナンパ男は怪訝に問い返す。
『……地雷だと?』
気功家にとっての『地雷』とは、相手の足へ雷孔を流す【
イケメンは飄々とレクチャーする。
『〝俺にとっての楊貴妃〟だっけ? 誰かに似てるから好きとか、女には気分悪くね?』
呂晶とナンパ男は、狐につままれたような顔をする。
『「 ……! 」』
ナンパ男の方は〝君はまるで楊貴妃のようだ〟という口説き文句が、単に流行っていただけで喜ばれない台詞と気付いたのだ。
『……なんだそりゃ。付き合ってらんねぇ』
ナンパ男はあっさり背を向け、その場を後にする。自分にも非は無い訳ではないが、メンヘラとの揉め事など御免だ。
「……」
呂晶はまだ、狐につままれた顔をしている。
(初めてだ————)
今まで女を楊貴妃と比べる『楊貴妃厨』に腹を立て、その度に頭がイカれた奴だと思われてきた。
でも、自分は間違ってなかった————判ってくれる人がいたのだ。それだけに、このイケメンに醜態を晒した事が悔やまれる。
「……余計なお世話だっつの」
呂晶もその場を去ろうとすると、
『あっ————ちょ、待てよ』
イケメンは慌てて『通せんぼ』する
『待てよ、チビ助————あんな甲斐性無しより、俺のが全然良い男……みたいな?』
イケメンは両の親指で自分を指差す。
「……
呂晶が怪訝な顔をすると、イケメンはウェーブの掛かった髪を掻き上げて言う。
『ぶっちゃけ、グズグズしてたら先越された、つーか……』
バツが悪そうに目を逸らした後、意を決したような眼差しで言う。
『————あの野郎がフラれるまで、ずっと待ってた』
呂晶は心の中で驚嘆する。
(なん……だと……!?)