✝④フランチャイニーズ:裏✝ 人間ATMの限度額
文字数 4,694文字
『第三の道……とは?』
花雪は少しため息を吐き、続ける。
「天国でも地獄でも無く、地ベタを這う道にございます」
『地ベタ……?』
貴族達が周りを見回す中、セガレ組の一人が答える。
『利益も損失も出さない〝中間の道〟という事でしょうか』
花雪はそちらに笑みを向ける。
「ええ。利益は少なかれど、安全な道────人は容易くそこへ流れてしまうのでございます」
生かさず殺さず。花雪は艶かしい唇に指を這わせ、恍惚を浮かべる。
「破産さえしなければ……また、挑戦することが出来ます故……」
まるで、搾り取られることさえ〝悦び〟と感じてしまう妖艶。
『……!』
『ごくっ……』
声に〝色〟が混ざっただけで、国のエリート達がオスの顔に変わる。花雪がボタンを押せば尽くすロボットである。
「……?」
貴族御曹司達が蛇に睨まれた蛙のように固まっている事に気付いた花雪は、人差し指を立て、顔と一緒に斜めに傾ける。
「とまあ————牙人はそこへ付け込み〝天国だった部分〟を頂くのが仕事にございまする」
覚えたての手品でも披露するような無邪気な顔。実際に覚えたてなのか〝ぶりっ子〟なのかは、花雪のみぞ知る。
その花雪はアイドルのような笑顔で続ける。
「妾の牙行では、客商に三割の手数料を支払わせております────様々な付加価値を加え、行商の指導も行った成果ではございますが」
『三割』という言葉が出ると、貴族の顔が〝オス〟から〝投資家〟へ戻る。
『なんと、相場の
十倍
ではありませぬか』『そこまで搾れるとは、勉強になるな……』
手品の反応に手応えを得た花雪は、誇らしげに顎を上げる。
「妾の〝傘下〟という肩書きを与えているのです。それくらい頂くのが当然ですのじゃ」
『金は天下の回り物』『お金を沢山使えば景気が良くなる』
〝嘘〟も甚だしい────
例えば〝中緯度高圧帯〟というものがある。これは赤道で温められた空気は低気圧となって上昇し、反対に北緯三十度付近は高気圧となり『雨が降らない』という気流のことだ。この気流の影響で赤道は熱帯雨林となり、北緯三十度付近ではエジプト、サハラなどの砂漠が形成される────
それが日本と何の関係があるのか
。〝中緯度高圧帯〟が無くなるのは何万年後
だろうか。いつかサハラに雨の恵みが回って来たとしても、我々に関係無いことだ。金が本当に〝回り物〟ならば一人頭のGDPは世界中で等しくなっている。だが、そうはなっていない。〝金が天下の回り物〟などと騙されていては、永遠に金持ちにはなれない。
金持ちになる方法は〝自分に金が回って来る体制〟を作り上げること。
その上で『皆んながお金を使えば景気が良くなる』という〝嘘〟を流布することだ。
金を使おうが、貯金しようが、奴隷は金持ちにはなれない。奴隷の景気は永遠に良くならない。奴隷が出来ることは結束して節制を行い、景気を後退させ、権力者を〝道連れ〟にする事だけ。権力者はそうならないよう『お金を沢山使って権力者へ流そう』と常にプロパガンダを行う。
そんな〝権力者〟とは、経済戦争や武力戦争で〝善良な一般人〟を虐殺し、破滅させるものとされているが、それは実態とは異なる。
人間は生きている限り毎月、数十万円の利益を生み出す————それでも生きていくだけなら、月に七万もあれば事足りる。
〝数十万引く七万〟
これが毎月、人間ひとりから搾れる限度額。十年で数千万円、十人で数億円となるが、
殺してしまえばそれらは手に入らない
。ヒトラーも、ポル・ポトも、ドフラミンゴも、天竜人も────権力者は民を殺さない
。貴重な人的資源を簡単に消滅させてしまっては、権力者には成り得ないのだから。相手から五万円
奪う
ことは犯罪だが、相手から五千万円搾取
する行為は法律が保障している。盛んに批判される〝奴隷制度〟ではあるが、実際には奴隷の定義すら存在しない。定義が無いから禁止されることは無い
。あからさまな奴隷制度を敷いた者など歴史上でもユダヤとカトリックくらい。ピラミッドを作らされたエジプト奴隷に始まり、二十一世紀のブラック会社に至るまで〝奴隷制度〟とは世界中で奨励されている、健全且つ善良な行為
である。何故なら搾取によって権力を得た権力者が、更に搾取するべく敷く奴隷制度こそが〝
黒人奴隷は少数でありながら暴動を起こした。日本人は99.89%が奴隷であるにも関わらず、結束も暴動も出来ない。内紛を起こせば社会保障が無くなるが、奴隷でいれば生活保護と胃ろうで生かしてもらえるから。日本人は歴史上の奴隷の中でも最弱最低の奴隷であり、だから今の日本になっている。
それでもアナタは、史上最低最弱の奴隷でありながら、自分が奴隷だと認めぬどころか、自分達より強い黒人奴隷を『可哀想』などと憐れんでいる。みじめで醜い、小さな小さなラフレシア────
つまり花雪は、傘下の商人に
成功も失敗もさせない
ことで〝長期的隷属〟という〝自分に金が回って来る仕組み〟を確立したのだ────このような経営指導と見せ掛けた隷属化を〝コンサルタント〟と呼び、自社のプレミアを他社にも付加する商売を〝フランチャイズ〟と呼ぶ。日本ではセブンイレブンが代表格である。『しかし、行商の話になると、随分楽しそうに語られますな。やはり商売人には関心が高いのでしょうか』
貴族の言葉に、花雪の顔色が変わる。
「────っ!」
花雪が行商について熱心に説明するのは理由がある。商売人の花雪にとってその理由とは、100%が〝利益〟である。
日本では『円安は国のためになるか否か?』などと言う馬鹿な議論がよく行われる。一昔前は『日本は内需で回しているから円高も円安も関係無い』と言い、二十一世紀では『日本は輸出で食ってるから円安が良い』と言っている。
資源を仕入れるなら〝円高〟が良い、
輸出で稼ぐなら〝円安〟が良い、
ここまで判っているのになぜ、なぜ奴隷達は────
『円高で資源を仕入れ、円安で輸出することが最大効率である』という、ごく単純な算数さえ解けないのだろうか。
為替とは発展途上国が気まぐれに操れるものではない。だが先進国の日本なら、〝円〟という自国通貨を持つ日本なら、簡単に操作できる。それらを行うのは日銀と財務省であり、日銀も財務省も権力を持っている。そして皆んな、皆んな、銀行員と政治家になりたがっている。その答えはシンプルであり、馬鹿でも判ることだ。
権力者が資源を仕入れたいから〝円高〟にする。
権力者が輸出で稼ぎたいから〝円安〟にする。
〝権力者〟とは追従する〝支持者〟がいるから権力を持つ。権力者のケツ穴を舐めれば甘いウンコ汁が吸えるからだ。逆に、権力者に追従しない者には────
資源を仕入れる者は円安で〝自殺〟させる。
輸出で稼ぐ者は円高で〝自殺〟させる。
権力者は殺さない、奴隷に奴隷を殺させる。何故なら自分で殺したら犯罪者になってしまうからだ。甘いウンコ汁を吸うのと、切腹させられるのと、人がどちらを選ぶかは言うに及ばずだ。
この単純な1+1=2が判らない者達が『日本は円安と円高のどちらが良い?』などと奇怪な話をしている、知能障害かつ若年性認知症を発症した日本の99.89%の奴隷業も満足にこなせぬ自殺するまで奴隷として奉仕しながら何故か『自分は奴隷でない』と黒人を憐れむ、究極の下等奴隷〝日本人〟である。
花雪はそれら奴隷とは違い〝輸出入業〟を行っている────花雪には為替を操作する権力も、法律を変える権力も無く、それを持つのは父の方だから。だから仕方無く〝輸出入業〟をやっている。〝輸出〟と〝輸入〟
そして、こうして権力を持つ者達に『両方やっている者が有利になる為替と法律にして皆んなでやりませんか』と、オススメさせて
頂いている
のだ。心を殺し、貴族のケツ穴を舐めている────天上の
自らの処女膜を貫かれる────娶られるのだけは
まだ
嫌だから、貴族様方のケツ穴を必死に舐め、貞操を守っている。美しく着飾り、ワガママで高飛車な振る舞いをしながら、オッサン共のケツ穴を舐めている。営業で身体を張って契約を取るセールスレディならぬ、セールスガール────高級セールスガールなのだ。とんでもなく卑しく、惨めな女だ。けれど、ケツ穴を舐めて奉仕させて頂いている内に、自分も欲しくなり、知らぬ間に本番挿入まで懇願してしまうのはよくある事だ。
(ヤバ、行商について喋り過ぎた……!)
〝利益〟の為にケツ穴を舐めているだけであり〝挿入〟を懇願してはならない。大事な貞操、自分の僅かな既得権益は守らねばならない────つまり、国内ならばともかく、
国外へ行商している事
は知られてはならないのだ。敵国のケツ穴さえ舐めている事
までは知られてはならないのだ。「ええ。妾はこれからは、
『ほほう。もしや、それで魏征様に船を?』
昨今の行商はリスクの高い陸路ではなく、もっぱら海路に移行している。いわゆる〝海のシルクロード〟と言うより、もはや陸の行商など時代遅れなのだ。それが判っていながら花雪は陸路に執着している────これは父、魏征にとっても関心の高い話題のハズだが、
『……』
その魏征は黙りこくり、淡々と料理を口に運んでいるだけだ。
『船ですと? そんな物までこさえておられるのか』
「さあ、どうでしょう? 船の使い道についてはまだ、ナ・イ・ショ……で、ございますのじゃ」
『むぅ~っ! そんな言い方をされると、気になってしまうな……』
アイドルのような笑顔を浮かべる花雪へ、魏征は横目を向ける。
『……』
けれど、再び料理に視線を戻した。
そもそも、海路を目論んでいるなら黄河に船を係留していない。
『でっ、では……次は私の質問を!』
花雪の笑顔に、一人の男が理性を失ったような声を上げる。その必死さは一瞬で周りに伝播し、
『いいえ、私めの悩みを!』
『お前はさっきしただろうっ!』
『おい、私はまだ一つも相談していないぞ!』
場の熱が上がると共に、男達から求められる花雪の表情が冷淡になっていく。
(なんじゃ、男の癖に悩みが多いのう)
見目麗しい容姿、華やかな舞を披露する運動神経、長話しをしたくなる話術、そして成功へ導く先見眼まで披露されては、男達が求めるのは当たり前だ。
この美女を自分の物にしたら、さぞ人生は豊かになるだろうか。この美女を乱暴に組み伏せ、猛る精を注ぎ込む行為はどれほどの快楽なのか。その時この美女は、どんな嬌声を上げるのだろうか————その好奇心は、宋の未来を背負うエリート達にとって国を捧げる価値がある。
自分で皆を焚き付けておきながら、いざ火が付けば冷淡になる────これが女の本能なのだろうか。
(もう喋り疲れたのじゃ。誰か気の利く者はおらぬのか……?)
とは言え、舞を披露し、そのまま喋り通しだ。一息付きたい。
この後に仕事だって控えているのだから。
「————花雪様は、どういった男性が
タイプ
ですか?」珍しく、女性の質問者だ。
「フッ……」
不敵な笑みを浮かべる。二人揃えば怖い物ナシだ。
「これは、これは……左曹侍郎、邦県令様がご令嬢————