†拾壹† 差別のやり方

文字数 3,132文字






 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 これが本命の要求────ローマチームは内功心法より強力な『治癒術』を


 唯一の健在班である理由は、それをチーム内で共有しているから。


「なあ……」


 イエンがユエに尋ねる。


「バフとやら、何やら底知れぬ奥深さを感じたが……なぜ〝足りない〟と言い切れる?」

「交渉術でしょう。何でも聞いていたら舐められる────」


 そもそも呂晶はバフと治療術の区別が付いていない。色々しているようなので、広域的な言い方をした。
 ユエが〝アナタみたいに〟と続けようとした時、


「────良いですこと、横柄なお猿様ッ!」


 ヘレンのヒステリックな声が遮る。


の治療術は、隊の者でさえ……!」

「────我々が治せるのは仲間だけだ。理由は話せない」


 言い掛けたヘレンを、ヴァリキエが片手を上げて制止する。


「出来るのにやらないんじゃあ無い……

んだ」


 呂晶は両手を広げる。


「判ってる、判ってる。

?」


 イエンが怪訝に呟く。


「奴は、何でも知ってるような口ぶりだ……」

「いや、アレは〝出まかせ言ったら大当たりだった〟て、感じだな」

「ウェイもよく判る……交渉術というやつか?」

「イエンは素直過ぎ」


 すると、花雪がまた顔を出す。


「まァーだ、終わらぬのか!? 妾は早く帰ってもう寝たいぞ! ……あっちもなんか諦めムードじゃ」


 今度は呂晶が片手を上げて制止する。花雪は岩に身体を乗り上げ、


「妾は、お前の召使いでは無いぞっ!」


 長い手でスラリと引っ(ぱた)き、不機嫌そうに顔を引っ込めた。
 呂晶は手をさすりながら続ける。


「出来るか怪しくて構わない。出来そうな

は転がってるだろ?」


 ヴァリキエは戦場に目をやり、呂晶に戻す。


「なぜそう思う」

「治癒はお前らの専売特許じゃない。それに、何だっけ────〝死因はおそらく窒息〟でしょ?」

「……」

「ウチらが欲しいのは、ウチらに全力で協力しようっていう、お前らの

だ」


 ヴァリキエが逡巡する中、呂晶はルシラの右腕に目を落とす。


(あの、治癒という言葉でも生ぬるい

……怪我してる連中に施せば、ハブられてるお前らは一気に英雄────じゃあ、何で隠してる?)


 千年後においても『医者』は最も尊敬を集める存在だ。
 その尊敬度は最権力者の政治家よりも高く、つまりは最上級。そんな絶大な『権威』を行使するどころか隠している。
 スチュワーデスが〝この中にお医者様はいませんか!?〟と叫び回る中、ファーストクラスで酒とキャビアをサービスされているようなもの。


(神聖な術は武侠(マフィア)なんかに与えないって? いいや────)


 此処に居るのは残らず武侠(マフィア)。彼らを救済する術を持っていながら隠し『隠しておいて見付かる』などすれば、恨みと報復を死ぬまで受ける。


(コイツらはキリスト教徒……そんな術があれば万倍誇張して聖書に記し、万年賛美し続け、万回戦争に利用する)


 国家(コミニティ)に属する者は、コミニティに貢献して

である。
 コミニティに貢献しない者、それは即ち敵性潜伏者(スパイ)

 ユダヤ、在日、学校のイジメられっ子────あらゆるイジメは『イジメられる側から向けた害悪(ワガママ)』への報復なのだから。日本の為に戦争で死ねるかどうかが在日(スパイ)であるかの線引き。
 ユダヤはドイツ国民でありながら、ドイツが困窮した際、ドイツからせしめた財産を持って亡命し、ドイツ国民を売る数々のスパイ行為を行っていたから、ナチスにより正当な処刑が下された。


(なのにコイツらは、そんな危険(リスク)

背負ってる)


 それでも隠すなら、ローマチームの治癒術とは『発覚』自体に『もっと大きなリスク』を孕んでいる。
 ユダヤや在日が、いつ処刑されるか判らぬリスクを抱えながら、それでも嘘吐き(ユダニダ)の遺伝子は辞められないように。


(おそらく信頼どころか不信感を得る、黒魔術を彷彿させるリスク……だから存在自体の隠匿(いんとく)を義務付けてる────中華連中(アタシら)を囮にしてた事じゃない、お前らの

を掴んだ……!)


 黄色人種を代表して負傷者の治癒を願い出る

────それは勿論、慈善とは反対の思惑の行為。


氣功家(アタシら)を上回る攻撃力……ゾンビ(キョンシー)のような戦闘継続力……この色目(バケモノ)を出し抜き、あの白霊(バケモノ)を討伐するには、もっと多く駒が要る……!)


 数隊が連携したところで状況は変わらない────けれど、

が連携すれば、どうなるだろうか。


(それに……)


 あの時のヴァリキエの顔────〝窒息なら治してやれるかもしれないのに〟と、悔いているように見えた。


になりますのよッ!」


 ハスキーな非難が上がると、ヴァリキエは苦虫の代わりに唇を噛む。


「……!」

 
 呂晶はにこやかに顎を向ける。


(ガキはチョロイぜ。お前も大変だな────)


 ヘレンの発言は、ヴァリキエが隠したかった『秘密のリスク』を全て喋ってしまったようなもの。
 ウェイにとっての呂晶がそうであるように、あちらはヘレンが悩みのタネのようだ。


(ここまで予想通りとは、やっぱアタシは天才だ……死人も蘇らせるのは……流石にビビったけど……マジに、マジなの?)


〝治療〟が出来ることは判っていた。〝蘇生〟についてはカマ掛けだ。
〝出来そうな

は転がってるだろ?〟という質問に対し、ヴァリキエは否定しなかった。
〝治せるのは仲間だけ〟と言った────仲間なら

と。
 呂晶の【内功心法】でさえ、出来るのは心肺蘇生(カウンターショック)程度だと言うのに、そこまで全能だとは流石にショックだ。
 他にも知りたいことは山ほどあるが、気持ちを隠し、最優先にすべき事をする。


「────今って〝緊急事態〟ってやつじゃん? 武侠連中って根性違うから〝失敗したらそれまで〟て言うだろうし……ってか、〝身内だけ治してる〟なんて知られたら————」


 それでもメンヘラは興奮のあまり、その言葉を口にするとは思えぬ病笑を『その女』に向ける。


「それこそ、すっごく……

って思われるんじゃなァ~い?」


 ルシラの顔色が青から悲壮に変わる。


「……ッ!」


 なぜ二十一世紀では、あれほど差別を禁ずるのか────〝どんな理由があっても差別は良くないから〟などでは、もちろん無い。
 差別をすればメディアで叫ばれ、復讐、暴動、テロ『法律さえ厭わぬ報復』が勃発、やがて分裂、内紛に発展し『著しい国力低下』に見舞われる。

 戦争(じえい)報復(じえい)を放棄した『日本人』という民族(ヘタレ)が受ける、過労死するほどの迫害は差別と認知されず、どころか〝日本人こそが差別(じえい)主義者〟とレッテルを張られ〝いもいもを作画崩壊させたのはシナチョン〟と呟いただけでツイッターアカウントを永久凍結される。暴動(じえい)を起こす力も無いウイグル、チベットに至っては助ける国さえ存在しない。

 ヒロユキが〝フランス人は日本人を醜い(putain)と罵ってはいない〟と、必死に擁護するのは当然だ。周りは全てガソリン代如きで暴動(かくめい)を起こす蛮族(フランク)に囲まれているのだから。〝フランス人はアジア人を差別などしていない〟そう嘘吐かねば、ヒロユキはフランス人にブチ殺される。

 差別は二十一世紀だから禁ずるのでは無い────太古の昔から、ずっとずっと禁じられてきた。人間は数万年では進化しない。


「あ……あの……っ」


 暗殺集団・氣功家の『差別への報復』とは、世界一の権力者・ユダヤほどでは無いにしろ陰湿でしつこい。
 一方、どれほど優秀であろうと、孤立無援の異邦人(ヒロユキ)や日本人は差別されたとしても

。差別かどうかは差別かどうかでは無く『権力者』が決める事なのだから────
 弱者が権力者を差別するなど以ての外、弱者は差別(レイプ)に抵抗してはならない。


「そ……それは…………え……えっと……」


 だから差別(じえい)は禁止される。
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登場人物紹介

呂晶(ルージン):20歳♀ 補正:力型極化 スキルマスタリー:内功心法=黒殺槍法>炎系気功


成都のアクセサリー店『呂礼屋』を家出。盗賊として非道を尽くす中、結盟『真夜中の旅団』へ幹部待遇で加入。外功の扱えない特異体質ながら爆裂加速した斬撃により気功家屈指の近距離戦闘能力を持つ。

重度の阿片中毒でバイセクシャル、己の哲学『真理』を己の命よりも優先する。


容姿偏差値:65(ガンメイク:70) 戦闘偏差値:85

ヘレン=アップレケ―ンタ:16歳♀ 補正:知型極化 スキルマスタリー:ウィザード>クレリック=バルド


赤子の折、北欧フィンランドの孤児院に捨て子として預けられる。生まれながらにゼロ点量子エネルギー『大気の乙女』を操るがそれにより幼少期に友人を殺害する。

以後は魔法による狩りで村に奉仕しながら罪を償い、15歳で成人した後は『大道貴族芸人』としてローマ帝国へ単身上京する。7歳でヘラジカを仕留めたことが自慢。


容姿偏差値:90 戦闘偏差値:90(杖喪失:50 リミッター解除:???)

花雪(ファーシュエ)18歳♀ 補正:完全バランス スキルマスタリー:寒月直伝飛天剣法舞踏派=炎系気功=雷系気功=氷系気功


国務執行機関、戸部右曹の侍郎を務める魏征の一人娘で貴族。楊貴妃の再来と言われる美貌と帝王学により『傾国のカリスマ』の異名を持つ細巨乳。複合企業・花雪牙行の会長であり、数百名の精鋭気功家で構成される『花雪象印商隊』の隊長を務める。同副長のユエとはライバル貴族家でありがなら幼馴染。自分の身体を他人に洗わせるのが趣味の変態。


容姿偏差値:85(舞90) 戦闘偏差値:55

寒月(ハンユエ)18歳♀ 補正:知型極化 スキルマスタリー:飛天剣法=雷系気功>炎系気功>氷系気功


戸部左曹侍郎、邦県令の一人娘で貴族。文林三絶、武林三絶『文武両道』の異名を持つケツデカロリ眼鏡っ子で、花雪象印商隊では護衛隊長を務める。インテリ気功家の代名詞『雷功』をこよなく愛し、中華最強の雷功使い『雷帝』に最も近い人物と評されている。趣味は読書、コミュ障と言えるほど大人しい性格と大きな尻にコンプレックスを持つ。花雪とは幼馴染であり彼女と眼鏡を馬鹿にされるととても怒る。


容姿偏差値:75(尻90) 戦闘偏差値:87

ヴァリキエ=ユスティニアヌス:28歳♂♀ 補正:力型極化 スキルマスタリー:ウォーリアー=クレリック


容姿偏差値:80 戦闘偏差値:95

魏圏(ウェイ=クァン):28歳♂ 補正:知型 スキルマスタリー:黒殺槍法=炎功>雷功>氷功


容姿偏差値:65 戦闘偏差値83

炎暗剣(イエン=アンジャン):21歳♂ 補正:知型寄バランス スキルマスタリー:飛天剣法青林派=氷功>炎功=雷功


容姿偏差値:70(眼帯:60) 戦闘偏差値:81

ルリア:???歳♀ 補正:知型極化 スキルマスタリー:ウィザード=バルド


容姿偏差値:76 戦闘偏差値:85(リミッター解除:???)

ルシラ:33歳♀ 補正:知型寄バランス スキルマスタリー:バルド>チェイサー=メイド


容姿偏差値:74 戦闘偏差値:60

遊珊(ユーシャン):20歳♀ 補正:知型寄バランス スキルマスタリー:破天神弓>炎系気功=雷系気功>氷系気功


容姿偏差値:78(花魁90) 戦闘偏差値:68

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