†花雪の悩み⑧† 美女子
文字数 3,819文字
天よ、この恐ろしい小娘を妾に巡り合わせし奇跡……————褒めて遣わす。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
『……え?』
気持ちが高揚している十八歳の眼鏡委員長は、恥ずかしそうに微笑み、不器用に〝その動作〟を行う。
そしてまた恥ずかしそうに、前へ向き直った。
『
ウ
ッ、ウインク
……?』それはお世辞にも、慣れているとは言えない動作。
慣れいないという事は、初めての動作。
初めての動作とは、初めての動作とは────
(副長、もしかして俺のこと……!? まさか、そんな訳……だがこの気持ちは、恋が始まる五秒前────……っ!)
慣れていないだけに、破壊力は抜群だ。〝電車で席をひとつ開けられるかどうか〟など、女子の行動は何気ないものでも気になってしまうものだ。
ユエのウインクを受け取った護衛も恥ずかしそうに、頭を掻く。
『この商隊も……アンタイだな……』
『なにカッコ付けてやがる』
辛辣な同僚に、護衛は余裕の微笑みを浮かべる。
『羨ましいか?』
『相手は貴族だ。夢見ると痛い目に遭うぜ』
『いいや、今夜は良い夢見るね────』
護衛は余韻を噛み締める。
『しっかし貴族ってのは、暇潰しも優雅なもんだァ……』
『ああ。後ろの女なんかこの三日、日焼けの話しかしてない。五分に一回は〝会長は白くて羨ましい〟だ────』
その花雪は、誰もいない前方に真っ白な腕を伸ばす。
「……────妾も、日に焼けてみたいものじゃな」
日に焼けてもいつも、黒くならずに赤くなる。赤くなった肌は病気のようで威厳を保てない。だからラクダの油を塗り、日傘を差し、面倒な日焼け対策をしている。すると周りからは『肌の白さを保つ為だろう』と誤解される。本当は〝褐色肌〟というものに、多少の憧れもあるのに────けれど貴族たるもの、そんな庶民のような悩みは吐露しないのだ。代わりに白魚のような指で前髪を後ろへ流す。
「そろそろ、髪も染め直さねばなぁ……」
肌色は無理でも、髪色は変えられる。花雪の本来の髪色は漆黒だが、薬を塗り込み脱色しているのだ。真っ白な肌に、真っ黒な髪────子供の頃から『幽霊』というあだ名が嫌だった。けれど由緒正しき貴族家で髪を痛める行為など許されるハズも無く。だから家出した際、最初に取り掛かった
デビュー
が〝脱色〟だった。親や家臣達が黒髪を褒めるので、あえて穢してやったという訳だ。商隊のみならず貴族界隈でも有名人であり、多くの〝信者〟さえ持つ花雪だが、黒髪のままなら更にその勢いを伸ばしていただろう────いいや、逆に少しくらい神格性を削いだ方が、親近感も生まれると思っての処置だろうか。それほどに花雪に似合う、ミステリアスなコントラストだったのだ。
けれど、花雪は自身を〝ミステリアス系〟などとは思っておらず〝ミステリアス系〟とは〝幽霊〟のようで、そのあだ名は子供の頃から────
「まさか……こうも定期的に染め直すハメになるとはのぅ……これでは自傷に精出す町娘じゃ」
女の自傷行為とは〝快感〟を得るために発露する原始的習性である。怪我を負うと脳内にエンドルフィンが放出され、痛みを和らげる。女はこの放出割合が男より高いのだ。性的快楽で得られるドーパミンも男より高く、おまけに二つは〝相乗効果〟まで発揮する。この習性により女は、
尻を叩かれて悦ぶ、
レイプで孕まされることを悦ぶ、
妊娠中に胎児に腹を蹴られて悦ぶ、
出産の痛みに快楽を感じる、
二人目、三人目、n人目を出産したがる。
といった、おぞましい習性を発露する。そして脳内麻薬には〝耐性〟が存在するため、必然的に〝依存症〟を発症する。
虐げられるほどに気持ち良く、
虐げられていないと欲求不満に陥る
。誰も犯してくれない年齢に達すると『社会と男が自分を虐げている(くれない)』と暴走し、SNSや政界で『ギャオン』する〝おフェミ豚〟が誕生する寸法である。男が人類の縄張りを拡張させた現代、雌が傷を負う事態はそうそう無い。よって雌は
自身を傷付け
『社会が私を傷付けさせた』という無茶な嘘を吐く。年頃の
女
が傷付けば男は多大な喪失を感じるが、若さを失って久しい女性
が傷付こうと、男は特に何も感じない。そのSNSや政界で〝ギャオン〟している迷惑なその老婆は、
アナタのお母さんである
。先に述べた通り、この本能は人類の〝原始時代〟に形成されたもの。男も傷付いた若い女を見れば『守ってやらなければ』という本能が刺激され、猿の群れも雌が叫べば雄はハーレムの防御に注力する。『女性の地位が低いなんて時代遅れ』などと叫ぶおフェミ豚こそが、原始から変わらぬ希少な原始人なのである。
原始時代では無い昨今、男は労働過剰状態にある────その横で『ギャオン』されたアナタのお父さんは、過剰なストレスでレスポンスを低下され、労働意欲を失い、アナタの家庭の収入は減少した。不景気のせいではない。アナタのお母さんにより、アナタの家庭の収入は減少し、各家庭でそれが積み重なり、不景気になっている。
どころかアナタのお母さんは、自分の夫やアナタのみならず、近所付き合いで、PTAで、SNSで、ご近所で、スーパーで、政界で、日本全土に迷惑を掛けている。
男が死ぬまで働いて当たり前の日本では、原始よりこの雌の習性が癌となっていた。よって、
『女は男に口答えするな』『女房は旦那の三歩後ろを歩け』といった亭主関白文化が形成され、おかげで栄華と繁栄を迎えていた。
二十一世紀、日本が低迷した理由は、アナタのお母さんが、在日朝鮮人を始めとする『座標』に感化され『私もう我慢はしない!』などと、ところ構わず
必然的に諸外国に侵略され、外観誘致や国家騒乱罪という大罪を行ったアナタのお母さんに、正当なる処刑を下せるか————悠久の歴史を誇る日本のターニングポイントは〝魔女狩り法案〟に懸かっている。
雌は虐げられるほど快感を得る生き物のため拷問は効果が薄く、中世ヨーロッパでも様々な拷問が試されたが結局、火にブチ込む方法に落ち着いた。中世で〝魔女狩り〟を行い、下等な
アナタのお母さんを処刑されたくなくば、アナタがお母さんを調教し『ギャオン』をやめさせる他に無い。
アナタがその責任から逃げているから今、日本のみんなが苦しんでいる。アナタがお母さんを調教する責務を放棄し〝国滅〟か〝魔女狩り〟のターニングポイントに立たされた時、〝人〟は必ず後者を選ぶ。ババアが傷付いて悲しむ者はいないのだから。
ちなみに男の場合〝自慰の習性〟はSMやNTRといった自虐性で発露する。人に迷惑を掛けない分、男は女と違って節操を弁えている。
生物は〝空腹〟と〝満腹〟の狭間で生きる────本能には必ず〝対になる本能〟が存在する。女が過剰なスキンケアをしながら自傷行為に走るのは、それが理由だ。そして自傷行為には肌を傷付ける以外に〝タトゥー〟〝日焼け〟〝
染髪
〟といった手法が存在するが、それらを行っている雌は例外無く〝欲求不満〟であり、年頃の女がそれらを行っているなら、それは『尻を叩いて乱暴にレイプして欲しい年齢になりました』というサインでもある。つまり、花雪の性経験とは────
「この髪は妾のアイデンティティじゃ。魏征め……幾ら使者を送ろうと、妾はこの髪を貫くぞ……」
女心とは秋の空では無く、猿の本能。
「ぺっ!」
花雪はライチの吸い殻を布に吐き出し、優雅な動作で放り捨てる。
たまに下の護衛に当たったりするが気にしない────彼等にとってそれは、何故か貴重な物らしいから。地面に植えるよりも、ずっとずっと。今も護衛達が、落ちた種を物欲しそうな視線で見ている。振り返りはしないが、絶対見ているハズ。と言うか見ていなかったら、それはそれで屈辱だが。
(平民には、妾の唾すら有り難い……
いと気持ち悪い
コトじゃ)優雅な姿勢と動作は身体に染み付き、種を捨てる時にも表れる。こちらは髪のように変えようとは思わない。親から褒められたことが無いからだ。
「ようやく、か────」
前方に見ゆる深い森。そして蜃気楼では無い、本物の水が流れる大河────いつも、始めて海を見えたような感動を覚える。
同時に右下から、涼しく、憎たらしい声が投げられる。
「ちょっと……〝ライチの皮を下に放らないで〟と言ったハズ」
憎たらしくも頼もしいその相手に、不敵な笑みを返す。
「やはり、お前は女心が判っておらぬようじゃ。下に放らないで欲しい時は〝下に放って欲しい〟と懇願するのじゃ」
「呆れて物も言えない」
花雪は優雅に背筋を伸ばし、旭日に飛翔するガビチョウのような声を賜る。
「後方のサボリ魔共に朗報じゃ————〝
同じ『ギャオン』なのに、美女子の方は真反対に聞こえるから不思議である。