†䦉†  色目人

文字数 3,865文字







『いいや……あそこに元気な奴らもいる』


 震える指が差し示した左翼前線────ローマ帝国親善大使チーム。
 特例六人編成にして、南東唯一の健在班。騎士特有の力強い剣技と、見慣れない外功を振るい、彼らの周りには子供の死体が積み重なっている。


「例の、胡人(こじん)か……」


 西方から訪れた彼らには『胡人』『異人』『異邦人』
 差別的かつ嫉妬的な意味で『色目人(いろめびと)』など、様々な呼び名があるが、中華(ここ)では〝大秦人(たいしんじん)〟と呼ぶのが正しい。
 この墓地に眠る秦の始皇帝・嬴政(えいせい)は、中華の西都、この長安に咸陽(かんよう)という国都を定めていた。ローマ帝国は世界(シルクロード)の西都────そのため大秦と呼ばれている。

 その心強い味方を、ウェイは警戒の表情で見つめる。


『上階に、馬鹿みたいにデカイ個体がいたが……アイツら、あっさり()っちまったよ────ちなみに小便は、あっちの水が流れてるとこで、みんなやってるぜ……』


 イエンも男の助言を無視し、警戒した声を上げる。


「奴らは、どうして傷も負っていない……! 一体、俺達と何の差があると言うのだ!」


 氣功家だって『孤高の死神』『闇の暗殺者』『戦えば禁軍にも勝つ』などと噂される、裏社会最強の武侠(マフィア)。多少の自意識過剰はあれど、古代から継承される戦闘技術に誇りを持っている。
 けれど、あの色目人達は、事あるごとにそのメンツを潰し、更には

まで含めたメンバー構成が民族的劣等感の強い特定アジア人を刺激する。

 ユエは〝軍隊でも無ければ使うことは無いだろう〟と、頭の片隅に置いていた知識を掘り返す。


隊列(フォーメーション)……だと思う。軍師が使う戦術を小規模で実現してる。かなり訓練されたもの」

「訓練だと? そんなの俺だって、皆やっている!」


 彼らのそれはバスケのゾーンプレス程度の単純なもの。されどフォーメーションとは

からでもなければ判りにくい。それ以前『集団より自分が大事な集団』を何千年も続けてきた中華民族にとって協力(フォーメーション)とは〝チート〟とも言えるオーバーテクノロジー。
 そんな『異世界から来たチート能力者』達に対抗すべく『楊貴妃の現代転生』が優雅に髪を払って歩み出る。


狼狽(うろた)えるな。目に札を貼りし庶平民よ────」

「しょっ!?」

 
 貴族らしい下目遣いで、旭日に飛翔するガビチョウのような声を賜る。


(わらわ)象棋(じょうぎ)を学んでおる……平民と一緒くたにするでない」


 イエンは狂ったように反論する。


「あれはボードゲーム(あそび)だ! 俺だってやった事はある!」

「妾のは象牙職人が彫刻したやつじゃ。お前達のは、板とかに墨で書くタイプじゃろう」

「そーーーだ、よッ!!」

「私達は寄り集まっても足し算。彼らは掛け算。戦術って、そーゆーもの————」


 ユエの補足の直後、前線から悲鳴のような声が上がる。


『お前ら、戻れェッ! 

ェーーーッ!』


 物々しい雰囲気に、ウェイ隊も戦場へ顔を向ける────
 二班、十人ほどが甲殻型を一斉に抜け、本陣に奇襲突撃を敢行したようだ。
 白霊を守る女型の子供達も反応し、蛇特有の高い鳴き声と共に、突撃者達を迎え撃つべく蛇行を開始する。


『『 ────ッ!! 』』


 剣と槍、三叉槍がぶつかり合う音が響き、ラグビーのスクラムのような押し合いが始まる。
 白兵戦では遠距離外功を放つ隙は無い。だが、あちらも毒の気功を放てなくなると考えたのだろう。
 実際にその考えは正しく、力と力の勝負になった。けれど女型と言えど体格差はどうしようも無く、スクラムは人間チームが押し戻され、崩れていく。


『もう少しだ……全員、気張れ!』


 その後ろから走り込んで来た者が、スクラムの背を踏み台に跳躍する。


『ウオオオオォォォッ!』

『『 ────ッ!! 』』


 突き出した剣が、白霊の下腹部に突き刺さった。
 西洋風ドレスの上からだが、かなりの手応えを感じた。だが相手の体積を考えれば針を刺したようなもの。このまま真下に力を込めて斬り裂こうとした時、白霊の身体が蠢く。


『ぐっ……!』


 両足で体躯を蹴り、スクラムの所へ着地、転がって衝撃を逃す。


『後ろの連中、手伝ってくれ! 数が足りない!』


 突撃者達から援軍要請が叫ばれる。
 なのに、後ろの者達は助太刀する所か、彼らを見捨てるように一斉に後退していく。


だァァァーーーッ!』

『アレが来るぞォォォーーーッ!』


 それは〝後退〟と言うより、もはや狂乱による〝敵前逃亡〟まるで『傷付けてはならない絶対的強者を傷付けてしまった』かのように。
 突撃者達は訳も判らず、逃げていく者達と敵の親玉────白霊を交互に見る。


『なんで……うずくまってる! 今が

だ!』


 彼らには、目の前の女型が邪魔になって見えていないのだ。
 上方、喧騒の中心────白霊が前傾姿勢で『何か』を押し潰している姿が。


「なんだ……奴は、何してる……!」


 あの巨体が人間的な動きすると、それだけで得も言えぬ感情が湧き上がる。
 イエンはその

に違和感を感じる────それは蛇でも人間でも無い、脳波を自然現象へと変換する人で無し、


「まるで……氣功家(オレたち)みたいな────……っ」


 黒く輝く歪み、それが押し潰された瞬間。




『『 ────ッ!! 』』




 地面から真っ白な閃光が(ほとばし)る。


「ぐあぁぁぁっ!」


 太陽にするように反射的にかざした手、細めた目。
 その隙間から垣間見た異形の景色。


「なんの光だ……っ!?」


 突撃した最前線チームが、みるみる堅い物質で覆われ————いいや、光と融合するように〝無機質〟に変えられていく。


『『 ────……ッ! 』』


 あんなにも眩しい閃光が、一瞬で消え去った。
 瞳孔の生理現象が追い付かず、視界は夜の砂浜のようにノイズだらけになる。


「一体……何が起きたと言うのだ!?」


 イエンが叫ぶと、男は身体を抱えて震え出す。


『クソッ……まただ……またあの光だ……っ!』


 イエンは霞む右眼を最前線に凝らす。


「固まっ……た? もしかして……

は全部、人間なのか!?」


 攻めるのに大いに邪魔な像。打ち捨てられた失敗作と思っていた。
 それは沢山、沢山ある────あの全てが我軍の人員なら、既にかなりの数がやられている。
 ユエは眼鏡の位置を調節する。


「石……に、なったのね……?」




 白霊の円周、数十メートル————静寂の世界だけが広がる。




「生き物を、石に変えるだと……?」


 兵馬俑は石製ではなく粘土を焼いた陶器製だ。銅製や金銀装飾された物、本物の武器も納められてはいるが〝アレ〟の無機質さは『石化』という表現が最もしっくり来る。
 けれど、それより疑問なのは、


「だが……あれでは奴の子も……?」


 女型の子供達含め、白霊以外の全生物が石化している。
 差し引きで言えば向こうの方が戦力を失っていそうだが、イエンが〝化物だけに損得勘定など無いのだろう────〟と思った時、


を見て」


 ユエの指し示す光景に、イエンは憎しみの表情に変わる。


「……なんてことだ……っ!」


 白霊の子供達が次々と蠢き、硬化した皮から破り出る。
 生まれたばかりのように動きは鈍いが、しばらくすれば回復する程度のダメージにしか見えない。
 それらが蠢き、元の布陣へ戻っていく────対して氣功討伐隊は、残り少ない戦力を更に失った。


「女型達は、白霊が術を発動する時間稼ぎを────……?」


 ユエがそう言い掛けると、顔色の悪い男が急に頭を抱える。


『仲間がアレにやられた……あの光をモロに受けて……!』


 震えと共に、胸から血が滲んでいく。


『まだ……あそこで石になってんだ……! 誰でも良い、早くあの化物を殺してくれ……!』


 石化した者が救助可能であるかは定かでは無い。
 この男も動けば命に関わる。
 何よりあんなものを見た後では、二の足を踏むものだが、


「加勢するぞ————ッ!!」


 義に熱い男は即座に立ち上がる。


「ファーとユエは負傷者の救助だ! イエンは俺と来い! 全員、今の光には注意しろ! ……────あの馬鹿はどこ行った!?」


 イエンは当然の質問を行う。


「注意って、一体どうしろと言うのだ!」

「知らん! 光ったら後ろにでも飛び退け!」

「飛び退け……と、言われてもな……」

「行くぞ────ッ!」


 水溜まりを踏みしめ、不安を抱えたまま前線に向かう。
 前に出るほど地面は岩場から砂地に変わり、そんな事より周囲の子供と対峙した途端、本命を見ている余裕など消える。〝光ったらマズイ〟と判っていても、急に避けられるだろうか。

 その戦場を湿った岩上────

ほどから俯瞰している者がいる。


呂晶(ルージン)

してんじゃん……」


 高い所が大好きな、白黒の

を二つのお団子でまとめた『地雷系女』
 矛の一種である『偃月(えんげつ)大刀』を携えている。
 色合いも装飾も『偃月大刀』という概念を冒涜するかのような、おぞましい〝kawaii〟に満ちているが、切っ先の重量感は、女が扱うにしてはあまりに巨大で凶暴(メンヘラ)だ。


「気()んねーし」


 そのメンヘラが睨む先────
 その心根を現すように真っ直ぐな金髪、夏の青空のように澄んだ色目。


Valkyrie(ヴァリキエ)「収まったか……前進、一隊列分(スコイニオン)


 役者のように中性的で美しい容姿、近寄りにくい雰囲気を纏う、ヴァリキエ=ユスティニアヌス。
 ついこの間まで、第一回十字軍で民兵達(おにもつ)をエルサレムまで引率していたローマ帝国騎士────その十字軍での活躍と手柄のほとんども、略奪と強姦(レイプ)ばかり精を出していたカトリック(おにもつ)に奪われてしまったが。


「ヘレン、進捗を報告しろ────」


 そのヴァリキエの命令に、同じ金髪碧眼でも愛らしいツインテールの

が答える。
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登場人物紹介

呂晶(ルージン):20歳♀ 補正:力型極化 スキルマスタリー:内功心法=黒殺槍法>炎系気功


成都のアクセサリー店『呂礼屋』を家出。盗賊として非道を尽くす中、結盟『真夜中の旅団』へ幹部待遇で加入。外功の扱えない特異体質ながら爆裂加速した斬撃により気功家屈指の近距離戦闘能力を持つ。

重度の阿片中毒でバイセクシャル、己の哲学『真理』を己の命よりも優先する。


容姿偏差値:65(ガンメイク:70) 戦闘偏差値:85

ヘレン=アップレケ―ンタ:16歳♀ 補正:知型極化 スキルマスタリー:ウィザード>クレリック=バルド


赤子の折、北欧フィンランドの孤児院に捨て子として預けられる。生まれながらにゼロ点量子エネルギー『大気の乙女』を操るがそれにより幼少期に友人を殺害する。

以後は魔法による狩りで村に奉仕しながら罪を償い、15歳で成人した後は『大道貴族芸人』としてローマ帝国へ単身上京する。7歳でヘラジカを仕留めたことが自慢。


容姿偏差値:90 戦闘偏差値:90(杖喪失:50 リミッター解除:???)

花雪(ファーシュエ)18歳♀ 補正:完全バランス スキルマスタリー:寒月直伝飛天剣法舞踏派=炎系気功=雷系気功=氷系気功


国務執行機関、戸部右曹の侍郎を務める魏征の一人娘で貴族。楊貴妃の再来と言われる美貌と帝王学により『傾国のカリスマ』の異名を持つ細巨乳。複合企業・花雪牙行の会長であり、数百名の精鋭気功家で構成される『花雪象印商隊』の隊長を務める。同副長のユエとはライバル貴族家でありがなら幼馴染。自分の身体を他人に洗わせるのが趣味の変態。


容姿偏差値:85(舞90) 戦闘偏差値:55

寒月(ハンユエ)18歳♀ 補正:知型極化 スキルマスタリー:飛天剣法=雷系気功>炎系気功>氷系気功


戸部左曹侍郎、邦県令の一人娘で貴族。文林三絶、武林三絶『文武両道』の異名を持つケツデカロリ眼鏡っ子で、花雪象印商隊では護衛隊長を務める。インテリ気功家の代名詞『雷功』をこよなく愛し、中華最強の雷功使い『雷帝』に最も近い人物と評されている。趣味は読書、コミュ障と言えるほど大人しい性格と大きな尻にコンプレックスを持つ。花雪とは幼馴染であり彼女と眼鏡を馬鹿にされるととても怒る。


容姿偏差値:75(尻90) 戦闘偏差値:87

ヴァリキエ=ユスティニアヌス:28歳♂♀ 補正:力型極化 スキルマスタリー:ウォーリアー=クレリック


容姿偏差値:80 戦闘偏差値:95

魏圏(ウェイ=クァン):28歳♂ 補正:知型 スキルマスタリー:黒殺槍法=炎功>雷功>氷功


容姿偏差値:65 戦闘偏差値83

炎暗剣(イエン=アンジャン):21歳♂ 補正:知型寄バランス スキルマスタリー:飛天剣法青林派=氷功>炎功=雷功


容姿偏差値:70(眼帯:60) 戦闘偏差値:81

ルリア:???歳♀ 補正:知型極化 スキルマスタリー:ウィザード=バルド


容姿偏差値:76 戦闘偏差値:85(リミッター解除:???)

ルシラ:33歳♀ 補正:知型寄バランス スキルマスタリー:バルド>チェイサー=メイド


容姿偏差値:74 戦闘偏差値:60

遊珊(ユーシャン):20歳♀ 補正:知型寄バランス スキルマスタリー:破天神弓>炎系気功=雷系気功>氷系気功


容姿偏差値:78(花魁90) 戦闘偏差値:68

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