†士大夫† 科挙の合格者
文字数 3,408文字
本をめくる事ばかりしている学者は、ついには考える能力を喪失する。
────ニーチェ
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
〝武官〟は軍部の将官────そして軍事を司るのは〝兵部〟だが、『武官は兵部の役人では無い』とは奇妙なことだ。
ウェイは何食わぬ顔で答える。
「それなら知ってるぞ。武官は〝軍〟のお偉いさんだ」
呂晶の顔が怪訝に変わる。
「おい……マジで知らないのか? 〝武官が夢〟とか言って、お前は何を目指してんだ」
「だから言ってるだろ、武官は〝軍〟のお偉いさ────」
「軍政やってんのは
呂晶が言葉を遮ると、ウェイは少し黙った後に口を開く。
「おう、それだそれ……実は枢密院ってのは、軍の黒幕なんだな……コレが」
「だから、アタシは今そう言ったんだよ」
〝武官〟とは兵部に代わって台頭した〝枢密院〟の高官である。日本で言えば〝自衛隊〟の高官にあたる。〝戸部〟は元豊の改革によって復活を遂げたが、なぜか兵部だけは元豊の改革後も復活は果たさず、未だ
枢密院の影に埋もれたまま
なのだ。呂晶はつまらなそうに問う。
「何で武官なんかになりたい……
枢密院とは〝軍隊〟であり、日本と同様に
二府————〝武官と文官〟がなぜ対立するかと言えば、中華の軍隊はいつの時代もクーデターで王位を
たとえば枢密院のトップと副長はどちらも文官、士大夫である。三番手以降がようやく〝武官〟であり、軍人はどれだけ武勲を上げても『学が無い』と文官に馬鹿にされ続ける宿命だ。
日本も『アメリカのせいで』『反日左翼のせいで』と声高に叫びながら、実際に軍隊を持つことを拒んでいるのは
日本政府
である。竹島も、北方領土も、拉致被害者も、取り返して困るのは日本政府だからだ
。そんな日本と同様、敵国との友好
が叫ばれる宋において、枢密院は自衛隊と同じく嫌われ者。軍隊が人気者になれば、戦いを誰より恐れる政治家は一気に権力を失うのだから────〝二府〟とはそういう意味の言葉だ。そんな意味も知らないウェイは、間の抜けた返答を返す。
「なんつーのかなァ……出世したい訳じゃ無くて〝都合が良いのが武官辺りだろう〟って意味なんだ」
呂晶は面接中に既に不採用を決めた面接官のように返す。
「なんだそりゃ────デカイ身体で財産築けんのが、それくらいって思ったんだろ」
「財産築くなら、それこそ
行政機関に属する国家公務員を〝官吏〟と呼ぶ。その下の地方官僚は〝胥吏〟と呼び、地方公務員だけに汚職が激しい。〝汚職〟というのは例えば、特亜の移民団体にまとめて生活保護を与えて、代わりに彼らが築く犯罪組織と
良好な関係
を結ぶような、つまりは例外無く売国行為だ。在日を日本に寄生させ、アナタの税金を搾り取っているのは〝総務省〟
在日朝鮮人の強制送還を拒み、アナタを外国人犯罪に巻き込んでいるのは〝外務省〟
在日様を治外法権で保護し、アナタを縄張りにシメているのは〝警察庁〟と〝法務省〟
アナタ達の税金を在日に直接、献上しているのは〝地方公務員〟────そう覚えておけば、何かの役に立つ日が来るかもしれない。
元豊の改革以降、これら売国公務員は処刑されるようになったが、日本の公務員は〝自分は日本人をいくら攻撃しても処刑されることは無い〟と高を括っている。公務員を死刑に処す『弱、中、強ボタンを〝
同時押し
したい〟』と言う〝死のダブラリを連打したがっているザンギ使い〟は山程といるのに。彼ら処刑すべき公務員に共通している事は、それぞれが持つ搾取力、賄賂、天下り利権により、ヘマして没落するか、防衛省がトリ狂って〝スパイ防止法〟でも制定しない限り、在日朝鮮人と共に多大な財を
築き続ける
という点だ。呂晶は自分にも経験があるかのように語る。
「
官吏や胥吏の下にいるのが『兼并』という大地主や大商人————呂晶の家のような富豪である。兼并の子は大抵〝
その科挙を突破して官吏となった者こそが、誰もが憧れる新興貴族〝士大夫〟である。金持ちというだけでは貴族では無いのだ。
「十浪だって!? そんな……もう受からせてやっても良いだろうに……官吏に成れても財を築く間もなく死んじまうぞ」
「ああ、あの爺は狂ってる。気孔を使えないのに狂雷を体得しちまったんだからな」
科挙の試験は三年に一回。『十浪』と言うからには三十年間試験を受け続けている事にあなる。気功家のインテリ代名詞たる雷功にも【狂雷十狼陣】という技がある。
「そういやお前、やたら博学だよな────士大夫に憧れてたりすんのか?」
そうウェイに言われた呂晶は、背負った武器を親指で差す。
「まさか────アタシはお前と同じ、〝こっち〟がお似合いだ」
「まあ、聞くまでもなかったな」
その言葉に、呂晶は不満気な顔を向ける。
「おい……アタシには〝士大夫なんて無理〟って言ってんのか?」
「何言ってんだ? とんでもなく
呂晶はハタと気付いた顔で肯定する。
「あっ……まぁな」
〝科挙〟の合格倍率は数千倍であり、様々な文学、歴史、政治、儒教に精通せねばならない。
膨大な書物の購入費、教師への謝礼、おまけに合格者の平均年齢は三十代中盤。その間、労働せずに学問に専念出来る環境が必要になり、受験が可能なのは富裕層に限られる。ノーベル賞をユダヤ人が総舐めしているのと同じだ。
(ヤベ、アタシが
高貴なるお嬢様
って事は、内緒だったんだ……コイツ、言ったら絶対タカってくるからな)そんな富裕層が競う数千倍の倍率。司法試験だって三割が合格するのだ────〝科挙〟とは有史以来、最難関の試験なのである。宗教団体が行う〝選挙〟という出来レースで成れる日本の政治家より遥かに格式が高い。
「そうまでして成りたい
「金ってのは運用してこそだ。アイツらには余った金の投資先みてーなもんなんだよ」
ウェイは怪訝な顔を向ける。
「投資だと? 金を出すのは親だろう」
「一族に士大夫が出たら親も貴族だぞ。元なんかいくらでも取れる」
ウェイは遠くを────と言うか、前方の象を眺める。
「花雪さんや寒月さんも、将来は士大夫か? この行商も、社会勉強の一環とか……」
「あのご令嬢達は目指したりしない、
成るのが約束されてる
」ウェイは怪訝な顔を向ける。
「約束されてる?」
「
花雪や寒月のような貴族は父祖のコネにより、相応の地位が約束されている。〝コネ〟と言っても、彼女達は幼少から帝王学というエリート教育を学んでおり、科挙の合格者以上に政府が欲しがる人材であることも事実だ。
そういった豪族がポストを独占し、余りを成金が科挙で奪い合う。一介の平民が滑り込む隙など無い。血統で将来が決まるのは千年後の日本やジャンプコミックスと同様である。
ウェイは再び前方を眺める。
「
「ああ、眼鏡が千馬陣を撃てても不思議じゃない」
呂晶も前方を眺める。
「それでも、昔は科挙自体が無かったんだ。ぜーんぶ蔭位だ、そりゃ反乱だって起こる」
ウェイの顔が怪訝に変わる。
「じゃあ何で、あの二人は行商なんかしてんだ……? 将来はエクスカリバーだろ」
「だから言ってんだよ。〝ママゴトだ〟って。アイツらには金も地位もあるのが当たり前で〝欲しい物〟じゃないんだよ」
「頭が痛くなるな……ウチの田舎じゃ、
アーサー王
だってのに」この時代は義務教育制度も確立されていない為、学力は貴族と平民、都会と田舎で大きく違う。けれど呂晶が怪訝な顔を向けたのは、別の言葉に対してだ。
「なんだ、その……アーサー王ってのは?」