†消滅死† いわゆる犬死
文字数 1,077文字
友と敵がいなければならない。友は忠言を、敵は警告を与える。
―ソクラテス―
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
『本当か、爆滅の炎じゃないか……? ああ、ありゃ消滅死だな。炎が青い』
気功家が死ぬと稀に起こる化学反応『消滅死』の理由は判っていない————
怨念が立ち昇っているという説、
体内の気孔が制御を失ったという説、
気孔を多用すると身体が人で無くなるという説。
ある者は骨まで燃えて灰となり、ある者はみるみる凍って砕け散り、その消滅方法は様々、特に手練と呼ばれる気功家ほど死体は残り難い。英雄と名高い超越者ほど、初めからいなかったように、この世界から消えてしまう。
『あの程度でか? 生意気な賊だな』
『賊が英雄のハズあるか……アイツは気功の使い過ぎだ!』
醜い死骸を晒すより、そうなる方が
あの二人の賊は結局、多少の矢と火薬を消費させただけで、何の意味も成さずに死んだ————いわゆる犬死である。
『ユエさーん、見てました!? 俺が仕留めましたーーーっ!』
弓手が手を振ると、ユエは後ろで燃える肉塊を剣で指し示す。
「……ありがとう、
右翼の護衛達に笑いが起こる。
『はは……やっぱり怖いな、ウチの副長殿は』
『人が弾けるのを見て、スッキリだと』
気功家には珍しくない光景だが、年頃の娘が言うとギャップで笑えてくる。
ユエは屈託なく微笑みながら、神歩幻影で軽やかに前列へ帰投していった。
『やっぱり上手いな……今、横向いたまま飛んだぞ?』
『ああ、あの人の神歩は特別製だ』
日常生活と戦場では物事の基準は変わる。学徒を動員しなければ更に酷い事になるなら学徒を動員する。そうなっても無いのに学徒動員を批判するあの知識人気取りの司会者は、そうなった時にどんな対案を提示するのか────ユエはそれを理解しているため、無用な正義感は持ち出さない。部下に余計なストレスを溜めさせない。敵がいればそこは戦場、こちらがどれだけ優位だろうと。
結局、あたふたしていただけで手柄も上げられなかった第一発見者、呂晶とウェイは戦いを振り返る。
「……言った通りだろ。ほとんどユエさんと弓隊がやっつけちまうんだ。俺たち
「ああ、反吐が出るよ」
「しかし、消滅死なんて珍しいな……初めて見たぜ」
ウェイは燃え朽ちる死骸に振り返る。
「あの盗賊……最期に、何て言おうとしたんだろうな」
振り返らずに進む呂晶が、静かに口を開く。