†真夜中の旅団† 偏差値60、職自由ギルド
文字数 3,064文字
「馬車に乗った商人一、護衛四……」
護衛の三人は余裕、一人は苦戦しそうだ。
「積荷、紐で括られてる……陶器か? 蘭州で宝石は無ぇよな……」
ヘラヘラ談笑してる。無警戒────
(
戦闘プランを練る最中、見慣れたシルエットに気付く。
「……────って、ありゃ
────私が所属してる結盟。その名も〝真夜中の旅団〟ふざけた名前だよな。どこの旅団だって真夜中になれば真夜中の旅団だ。
そんな三秒で考えたような名前でアレよアレよと人が増え、現在の構成員は四十五人。雑魚ばかりだが人数だけならかなり────もしかしたら、長安の氣功家結盟で一番多い。〝尖ったところが無い〟という所が、逆に門戸を叩き易いのだろう。
「〝真夜中〟が真っ昼間に行商してんじゃねーよ、ったくよぉ……」
力が抜け、その場にへたり込む。
「……商人家出身の武侠、
────なんて言われてるが、かつての群雄割拠に比べて穏やかな昨今、頭角と言ってもたかが知れている。そう、
アレ
こそが例の〝近くにあった大学〟だ。「
一応
、仲間だからァ~……〝アレ〟も襲えなァ~い」私が入学希望してたのは群雄割拠でもナンバーワンの結盟。偏差値で言えば七十と六十くらいの違いがある。たまたま仕事した子に『エースが脱退した穴埋めを募集しいてる』と紹介され、行くアテも無いので一時凌ぎで入っただけだ。
その子も『自分は盗賊に向いていない』と結局、商人に転向してしまった。
「はいはい。今日も可愛くて淑やかでちゅねぇ~……」
その〝商人に転向した子〟てのが、あそこの真ん中で馬車に乗ってる、淑やかでバブみMAXな
タメなのになぜ〝先生〟かと言うと────まあ、色々スゴイ女だからだ。見た目通り腕力は貧弱だが、氣功を覚えて一年も経ってないのに、もう他の雑魚より使える弓使い。何より髪と肌が幼女のように瑞々しい。
「あれが
元花魁
……おっと、そいつは言ったらダメだった」────あれが元花魁というなら、男はなんだかんだ幼児体系が好きなのだろう。
アタシは女の特権でよくあの肌に抱き付いている。
バイバレ
するのが嫌だから一線は保っているが一緒にいるとムラムラして正直ヤバイ。けれどそんな先生も肌の秘訣だけは教えてくれない。「そんなっ……何もしてないのよ? 本当なの……」
と言って誤魔化し、それがまた可愛い。だが絶っ……対! 何かしているハズだ。
その遊郭の秘術、いずれもらい受ける。
「護衛はガイル、トモ、名前忘れた、あとウェイか────お馴染みの面子だな。相変わらず薄い顎してやがる」
盗賊だろうとアタシだろうと構わず受け入れ、それイザコザが起きないのはひとえに結盟主、あのウェイの人徳なのだろう。今、先生の横を歩いてる、長身で、眉間にデカイ傷があって、古臭い髪型してる顎の薄い男がそれだ。
〝真夜中〟はレベル自体は低かったが、ノリだけは良いと言うか、面白そうな事は何でも挑戦して、下手な正義感とかも持ってなくて、盗賊業も手伝ってくれて────入ってみたら、意外と居心地は良かった。
「でも、今はコレ────」
『みんなで住める邸店の建設費用を捻出する~!』と言って────〝邸店〟てのは行商人とか武侠の拠点なんだけど、それで始めた行商。やり出したらハマったらしく、最近じゃ旅行気分で色んな所を行ったり来たりしてる。
〝二手に分かれてどっちのグループが多く利益を出せるか〟なんて勝負をしたりな。結盟のブームってやつだ。
「でも、アタシは知っている────」
先生が行商を始めた途端、男達が一斉に護衛へ転職したことを。
「〝俺は別に、遊珊と遠足したい訳じゃ無いしィ~? ウチは結盟員のやりたい事を最大限にバックアップするスタイルだからァ?〟」
────みたいな空気醸し出しやがって。じゃあ何でお前ら、今盗賊やってるアタシのバックにいねーんだよ。結局男なんて、女だよ。
「いや……それだと、アタシが女じゃねぇみてーじゃねーか」
────今のはナシだ。
まあ、ウェイはアタシと同じで商人家の出だから、性に合ってんだろう。て言うか、盗賊してた時の方がみんな無理して合わせてたのかも。そういう数々の理由でこうなってるだけで、アタシの女としての魅力が低いワケじゃないし、アタシはボッチでもない。
アタシの方から『行商なんて興味ない』って、断ってやったんだから────クソ、これじゃ〝自称サバサバ女〟みてぇじゃねーか。
「しかし……こうやって見るとアイツら、最大限のカモネギじゃん」
もしかして、アタシにエモノを提供する意味でのバックアップなのか……? なんて、ウェイがいればそうそう殺られないだろ。〝アレ〟はシカトだ。
「久々の獲物は、結盟でしたァ~……────ああ、もうっ!」
近頃は盗賊界隈も繋がりがめっきり消え失せ、同業だった連中がどれだけ続けているかも判らない。アタシが昔ながらのポイントで張ってるのも、この情報不足に起因する。
「それを解消するのも、結盟入った理由なのによ……────ん?」
ウェイ達の後方————茂みに隠れた影が見えた。
両手で筒を作ってそこを注視する。
(盗賊……二人、動きが慣れてない……ルーキーか?)
ウェイ達を狙っている。同じ結盟なのだから、ウェイ達の助けに向かうべきだ。
「やるのかァ~……? いくのかァ~……? いけェーーーっ!」
だが、久々に見た同業だけに、先輩心から応援してしまう。
「おおおぉ、マジでいったァーーーッ!」
戦闘を拝んだのなんて久しぶりだ。自分が手を出せない分、余計に感情移入してるかも。
「殺れよ!? 薄顎を殺れよッ!? アイツは顎が弱点————ああ……」
飛び出した一人は集中攻撃を喰らい、炎功で馬車に撥ねられたみたいにぶっ飛んだ。
もう一人はパニクッて突っ込み、やはり集中攻撃でぶっ飛んだ。
(何やってんだよ……)
あの体たらくは何だ、偉大教師すら仕掛けないのか。いや、知らないのか? あれじゃあ只の特攻だが、特攻と言うからには一人は道連れにする気概を見せろってんだ。
あれじゃあ只の犬死————いや、死んでない?
「盗賊相手にも、
どっちもマジで、どうしようもねぇ────お前ら如きが余裕見せれる分際か。反吐が出るぜ。
「アタシが出たら……アタシが出たら、お前ら如きなァッ!」
────違う、アタシがやったらいけないんだ。
「てか……賊って実はまだ、結構いるのか?」
判ってれば一緒にやったのに————いや、アレは殺らないよ、別のをよ?
「……それも違うか」
あんな雑魚と仕事するくらいなら一人の方がマシだ。やってもレクチャーって言うか、尻を叩くって言うか。すると雑魚は『上から物言ってんじゃねぇ』とかキレ出し、雑魚にキレられたアタシもキレ出し、仲間割れの勃発で雑魚は死に、ゾンビとなって甦り、村を襲うであろう────
あ、そうだった。それで今、私は一人だったんだ。
「はあ……」
溜息と共に倒れ、再び〝寝そべり賊〟になる。
「アタシは別に、金なんていらないんだ……」
この燻った気持ちをぶつけられる、敵が────
「……ちょっと待って!?」
そうだ、簡単なことじゃないか。
「
敵が欲しいんなら
……!」