†プライスレス† 本命バレンタイン
文字数 2,515文字
今から敦煌行きの☆5交易出発します。襲ってくれる盗賊さんカモ~ン^^w
真夜中の旅団
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
十一世紀末、黄河中流、蘭州の森林地帯————
自然豊かな街道に、二名の盗賊の声がこだまする。
『オラオラァッ! 腹にピアス付けれるようにしてやろうか!?』
一人は〝当たっても構わない〟とばかりに、威嚇の矢を乱射する。
四名の隊商護衛は怯み、頭を抱え、荷馬車から散り散りに離れていく。
「うわ~~~っ! 矢が怖くて近付けなぁ~~~い!」
「あっ、突破されたぞぉ~~~っ!」
その隙をもう一人の盗賊が走り抜け、馬車に跨る女商人に野太い曲刀を向ける。
『どけよッ! 死にてェのか!?』
身の危険を感じた女商人も馬車から飛び降り、
「ごめんなさいっ! 私は逃げるわ!」
馬車は二人の盗賊に占拠されてしまった。
『他の連中、動くなァッ! いいや、死にたかったら動いて良いぜ!?』
弓使いが威嚇している間に、曲刀使いが積荷を物色する。
『あったぞ……この厳重な包装……絶対に宝石だぜ……!』
粗雑に積まれた物資の内、一際光沢を放つ箱————
紐を斬って抱え、馬車から飛び出す。
『例の場所まで戻るぞ!』
『応ッ! 商人共、死にたいなら追って来やがれ!』
商隊の半分以下の戦力だと言うのに、あっという間に強奪を成功、速やかに撤退を開始する。
あとは繋いである馬の所まで走り、それに乗ってトンズラすれば良い。
『いや、待て────』
なのに、その足の速度が徐々に遅まっていく。
弓持ちが慌てて問いただす。
『なんだ!?』
『何かおかしい……アイツら……様子がおかしい』
ヘラヘラと軟派な隊商ではあったが、あまりに事が簡単過ぎる。
「逃げてしまうぞぉ~~~追うんだぁ~~~!」
「盗賊めぇ~~~待てぇ~~~っ!」
護衛達はとても悔しそうな『(≧д≦)』という表情をしながらも、ワザとゆっくり追い掛けているような、何だかよく判らない動きをしている。
そう、この隊商は何から何まで演技臭い。
『軽い……一体、何が入ってる?』
曲刀持ちはついに足を止め、箱の紐を切断する。
弓持ちが声を上げる。
『開けるなッ!! 罠かも────……!』
言い終わる前に、午前の日差しが箱の中へ射し込む。
その瞬間、盗賊を追っていた二十歳の女護衛は、
「……へっ」
薄気味悪い笑みを浮かべる。
『なんだ、こりゃ……』
曲刀使いの盗賊が玉手箱を喰らったような『(; ・д・)ポカーン』という顔をすると、弓持ちも顔を並べて箱を覗く。
『これは……っ! たね……もみ……?』
緩衝材で敷かれた藁の上────
そこには稲の種が一掴みほど入ったレースの小包が〝ちょこん〟と封入されていた。
まるで『本命バレンタインチョコ』の如く。
「ぶはぁっ! ぎ……ぎぎ……!」
追撃していた護衛の一人、ウェイが吹き出し、滑るように座り込む。
「ぶわぁっはっはっはァーー-ッ!! あの顔ォッ! 見ろォッ! あっはっはァー-ーッ!!」
指差して笑い出した。
女護衛も顔を抑え、部活の練習中に熱中症でも起こしたように崩れ落ちる。
「やっ、やっ、やっ……やめてェ、大臣様ァァァー--ッ!! そそそ、それを持っていかれたら、アッ、アッ、アタシらは冬を越せねぇんですぅーーーッ!! ひっひっひっひっひ……!!」
笑いを誘う笑いに、他の護衛達も追従する。
『アンタ────ッ! 貧しいワシらから種籾までもばはァッ! はっはっはっはっは!! 鬼畜じゃーーーッ!! はっはっはっは……!』
『鬼畜とかやめろォォォッ!! 戦う前にっひっひっひ……!! 笑い死ぬ……ひーっひ! ひーっひ!』
笑い転げる四人の護衛達。
人とはこのように、走っている最中に笑うと転んでしまうのだ。
淑やかな女商人、
「ちょっと、笑い過ぎじゃないかしら。あの人達だって必死に……フフッ……あ、ごめんなさい……っ」
笑われ、会釈され、立ち竦む二人の盗賊。
その箱の意図に気付く。
(謀られた————)
それは判った。
だが何故、わざわざこんな事を。
「ああァ~……ウッケるぅ……」
女護衛は涙を拭いて立ち上がる。
「民から種籾まで奪うような悪徳大臣は————成敗しないとね?」
そう言って、両刃で大型の矛、大刀を抜く。
『『 ……ッ! 』』
盗賊達の殺意の表情を無視し、女護衛は続ける。
「言っとくけど、お前ら如きの【
〝逃げても無駄だ〟という忠告に、曲刀持ちの盗賊は秒で駆け出す。
『なら、死ね────』
数歩の助走から大きく跳躍。
空中で真横に一回転し、人間とは思えぬ動きで野太い曲刀を振り降ろす。
同時、女護衛の眼が輝く。
『『 ────ッ!!!! 』』
閑静な森林地帯に、火薬が弾けた音が
『なっ……』
着地した賊は己の手を見下ろす。
振り下ろした曲刀が無くなり、代わりにもたされた強烈な痺れ。
そして薪を割ったような軽快な音が響く。
『『 ────ッ! 』』
左方を見る。
自分の曲刀が木の幹に突き刺さった。
「ノロイ、握りも甘い、そして何よりもォ~~~……」
女護衛は大刀を振り抜いた勢いで一回転、二回転し、軸にしていた足を〝ビシッ〟と広げながら、賊の首に切っ先をあてて言い放つ。
「〝速さ〟が足りない————ッ!!」
キメ
ているのだ。賊より重い武器、遅い初動にも関わらず、賊より早く振り抜いた。そこへ、最初はこの行商をどうかと思いながらやってみると意外に楽しく、ついには悪ノリを始めたウェイが横槍を入れる。
「呂晶……最初と最後……ぐふっ、同じ意味だけど……?」
呂晶の顔が歪む。
「ああぁぁぁ……やらかしたぁぁぁ……」
賊に大刀を向けたまま、商隊に振り向く。
「ワザとよっ!? ウケ狙っただけだし!」
ウェイ達はそれを指差し、再び笑い出す。
「やっちまったんだろおぉぉぉ!! だっせえぇぇぇ!! ドヤ顔だっせえぇぇぇ!!」
『『 ぎゃっはっはっはっは!! 』』
一度笑い出すと、箸が落ちただけで笑えるものだ。
盗賊は痺れる手を握り締めて叫ぶ。
『この……金の亡者共がァアアアアッ!!!!』