†漆† 戦狼外交
文字数 2,779文字
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ウェイ組の助力も功を奏し、あらかた倒し終えた頃————ヴァリキエと呂晶はお互いを睨んでいる。
ウェイは動けぬマニュエルに駆け寄り、声を掛ける。
「スンマセン、神父さん! ウチの馬鹿が迷惑掛けちゃって……ケガ、無いっスよね?」
「Oh......ダイジョーブデース、ドーモデース」
ウェイはしゃがみ込み、足元の氷を拳でノックする。
何かを探るように、叩く角度や強弱を変えていく。
「What?」
マニュエルが手を広げると、氷が一斉に砕け散る。
『『 ────ッ!! 』』
「oh! クイッドゥ! ハッハァーッ! エクセレンッ! ヒンヤリシマース!」
アイスセカンド特有の化学反応。
マニュエルが『逆さの雪』に感動する様子に、ウェイは苦笑いを浮かべる。
(テンション高けェな、コイツ……)
更にその様子を、ルリアが目を細めて眺める。
(ふーん……周波数合わせれば砕けるんだ)
白ギャル上がりのOLのようにミーハーな印象のルリア。見下す視線は生理的嫌悪に満ちている。
そこに、戦場最年少のハスキーな声が響く。
「はっ……離せ、女猿!」
その声でヴァリキエ以外の全員も気付き、只でさえ苛ついているイエンが叫ぶ。
「貴様ァ……こんな時に、一体何をしている!?」
「確か、
マッドネス
と言ったな────」ヴァリキエがギリシア語で問う。呂晶が話せることを知っているからだ。
「
「名前はいい。私が聞いてるのは
それ
の意図だ」ヴァリキエは乱戦を鎮めた先に顎を振る。
そこではヘレンの後ろ手を締め上げ、首元に
「起点になるのは、その
神父
だろ————」その切先は人間相手には不必要なほど大きく、少しでもバランスを崩せばヘレンの細い首を飛ばしそうだ。
「〝チームで動けば無敵〟とでも思ってんだろうが〝アタシがその気になればいつでも崩せる〟て、教えておきたかったの」
ヴァリキエは冷徹な声と眼差しを返す。
「……何の脅しだ」
たったそれだけで〝あらゆるテロに屈しない〟〝人質は意味を成さない〟という鉄の意思が感じ取れる。
その内心は不明だが。
「脅しじゃあ、無い……お前らが自慢気に披露してる戦法はアーシらの
善意
で成り立ってる」一方、呂晶のギリシア語はローマチームの上品な
その訛りは、呂晶がどういった立場の人間なのか伝えるのに、とても効果的だ。
「
核心を突く口答えをしたヘレンの腕が、即座に捻じり上げられる。
「いっ……!?」
華奢な背は反り返り、
「美味しいトコだけ持ってこうとしてんのはどっちだ……! こっちに危ない役だけやらせて気に入らないんだよ……!」
「痛いっ……! 痛いですわっ!」
背後から苦悶の表情を覗き込み、唇が耳に触れる距離で、やはり脅すように言う。
「
テメェらも少しは前に出ろ
」ヘレンは嫌悪の顔を背ける。
「……っ!」
それを他隊の前進具合に合わせ、相対的に調節しているように
見えた
ことが、呂晶は気に入らないと言っている。ほとんど言い掛かりでMPKを仕掛けたのだ。ヴァリキエは変わらず冷徹に返す。
「そんなつもりは無い……が、そう見えたなら仕方無い」
「そう見えるって事は、そういう事だ————」
言いながらヘレンを離す。
「くっ……!」
他の者達も〝明日までに五〇万持って来い〟〝事務所で指詰めろ〟といった
「ウチらのシマで勝手されっと困んだよ。少しは
協調
してくれねーと」どの口で言いながら、呂晶はまだ息のある子供に大刀を振りかぶる。
「知らずに迷惑掛けちまうこともあるそうだし————なァッ!」
ゴルフクラブのように振り抜くと、火薬が弾けたような閃光が迸る。
『『 ————ッ!!!! 』』
子供は内蔵を巻き散らし、アイスホッケーのように転がって行った。
ルリアは散乱する肉片に身を竦める。
「うわぁ……」
【
性格同様に捻くれた経脈が時空を衝突させ、得体の知れない爆発を引き起こす。
呂晶は主に矛先でこれを発生し斬撃強化に用いる。近接戦闘に秀でる反面、多くの外功が自爆技となり使用不能。
呂晶はヴァリキエに〝私も同じことが出来るぞ〟とばかりに得意気な顔を向ける。
ウェイはその意図を理解している為、呂晶の横暴を黙認する。
(勝手も何も、元々競争だけどな────)
その意図とは、慣れない土地に疎外感を感じているだろう異邦人に『イニチアシブ』を取ることだ。
ローマチームの目立たぬ立ち回り。あれは他隊を囮に息を潜め、一度スルーパスが出たら一気にディフェンスを突破、
ヴァリキエは呆れたように返す。
「遠回しな言い方だ……情報が欲しいのはお前達だろう」
呂晶は惚けたように手を広げる。
「そんなこと言ったか? アタシは
文化交流
が好きなんだ。〝宋とローマで友好
を築けたら良いな〟て思ってる。そっちが情報交換
したいなら付き合うけど?」MPKを仕掛けて〝友好〟を叫び、情報を提供させる行為は〝
日本の震災は
『北西組が来たぞォーーーッ!!』
そうこうしている内に、最後の援軍が到着した報せが響く。
『後退しろ! アイツらに前に出てもらう!』
『うおっ……あれが白霊か!』
『おい、一体どういう戦況だ!?』
慌ただしく戦場が蠢き始めると、ヴァリキエは反射で援軍の人数や戦闘力、今後の戦闘展開などを想定する。
『まだ生きてやがったか、ラッキーだぜ!』
『急げ、急げ! 他の組に倒されちまうぞ!』
それらの想定を終えると、ヴァリキエは大剣を鞘に納め、チームに命令する。
「……一旦、離れるぞ」
〝しばらくは膠着状態に戻る〟と判断したようだ。
その判断に、ヘレンはワザとらしく手を広げる。
「殺され掛けたお礼に、お茶会でもいかが————? 冗談はお
通常、
そんな特亜に派遣された左遷騎士、ヴァリキエはヘレンの頭に手を乗せる。
「先に吹っ掛けたのはお前だ。調子に乗るとこういう目にも遭う────
皮肉は可愛くないぞ
」「……っ!」
ヘレンは目を見開いた後、憎しみの瞳を呂晶に向けた。