†拾陸† 自分に願い、自分で叶える為に
文字数 3,106文字
犠牲行為によって計画される道徳は、半野蛮的階級の道徳である。
悲観を基盤に、不幸と悲哀を善とするこの道徳————この
ニーチェ
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「よそ見してんじゃねーよ、整形ブス。テメーの相手はアタシだ」
一人の女が両腕を広げ、悠然と歩いてくる。
白霊は目だけを下に向ける。
「デケー顔しやがって……エラ削んの忘れてんじゃねーよ……!」
全長一〇〇キロメートル、頭部だけでも身長は十倍、体積は千倍、それを支える強靭な巨体、それが生み出す無慈悲で絶対的な膂力。神のような造形。
目を合わせると怖い。足が震えそうだ。いいや────震えている。
全身が心臓になったように身体が震えて動かない。何も出来ない。まるで蛇に睨まれた蛙のように。
「……上で、
『フラグ』という言葉がある————物語において特定の展開や状況を暗示させる事柄。
〝戦闘中に故郷に想いを馳せる者は死ぬ〟
〝貴族は没落する〟
〝陽気な黒人は生き残る〟
これらは何の因果関係も無いが一種の『道徳観念』のように定着している。中でも最も多いフラグとは〝悪は正義によって打ち滅ぼされる〟である。
「弱ェ癖に無様に立ち上がりやがって、〝生まれたての子鹿みてぇだ〟て、皆んなで大笑いしたよ」
何の因果関係も無いのに
、物語の作者がこぞってフラグを立てる理由────それは
『『 …… 』』
まず、
誤認
させる〝生贄〟である。その地雷を踏んでしまったが為に
本来、製薬体制まで確立したドレスローザとは中世感覚のあの物語では『超先進国』だ。
巨大な科学施設を建設し、保持する技術者達がいる────それは高度な教育制度の存在を示唆し、教育は衣食住の生活保障が無ければ実現せず、生活保障は治安維持の行き届いた国家体制を意味している。
ミンゴが本当に〝ルヒー側が主張する数々の暴虐〟を働いていたなら、ドレスローザは『商売が上手く行き過ぎてやることが無い』と言わしめる程の繁栄を遂げていない。
馬鹿でも分かることだ
。罪人をブラックリストに登録する権利と責任も、ドレスローザ民が享受するハズだった幸福を簒奪していた
前王
を処刑する権利と責任も、ルヒーが国際弁護士、もしくは国際警察機構の人間であり、
「
ルヒィ一味が行う〝身勝手な私的成敗〟とは『障害児はオレらの
では、どうして
バカとは即ち『
自分では何も出来ない
。だからミンゴに、軍隊に、政治家に、権力者に、優秀な者に『整合性の無い悪行』を行わせ、その名誉を大いに
馬鹿以外の全てを貶め、相対的に
馬鹿の価値を釣り上げる
。馬鹿は金を手に入れ、宴を開いては美味い飯を食い、美味い酒を飲み、女をはべらせ人々から英雄視される。
馬鹿以外の全てが貶められた時────技術者は職を失い、先進施設は朽ち果て、教育医療は崩壊、衣食住の生活保障も無ければ犯罪が横行、ドレスローザは猿の惑星へ退化する。
そんな
物語の
誰かを悪人に仕立てても、お前の価値など変わらない。『アイツは誰かを虐げた』と、世界に嘘吐く
これが
「マジで、究極に惨めな奴だったぜ────」
利害の共有が〝道徳〟
道徳を刷り込む教科書が〝宗教〟
故郷に想いを馳せる優しい者はお涙頂戴の〝
金持ちの貴族は調子に乗っているから〝
何の因果関係も無い、あるのは醜い打算だけ。
けれど、この女は神仏、占い、おまじない、呪い、全ての〝嘘〟を一切許さない
だから、その
いつの日も自分は、最高のパフォーマンスを発揮する。
「せめて潔く死ねば良いのによ……アイツ、いざ自分がヤバくなったらさァ~————っ!」
この女が今している〝死者を冒涜する行為〟とは、
悪人が自滅する際の典型的なフラグ
である。この化物、白霊は特に悪いことはしていない。悪と言うなら褒賞欲しさに彼女、その夫、子供を虐殺している方。
自らの利益の為に、
悪人は嘘など吐かず悪を全うすべきである
。浅ましいフラグなどクソ喰らえ、
浅ましいフラグを描くクソ共などクソ喰らえ、
馬鹿達の支持を掻き集め、
この女は相手が化物であろうと、相手を悪者にはしない。
たとえその
「〝化物は裏切るから許してくださぁ~い〟って、泣き喚いてやがんの~ッ! 命乞いってやつぅ~ッ!?」
自分に願い、自分で叶える為に────
「ダッサァ~! サイッテェ~! 〝死んでザマァ〟って感じィ~ッ!」
自分の心に、『折るべきフラグ』を刻み付けろ。
「あとこの戦い終わったら結婚しようと思ってて、実家は超金持ち、
黒人は甘えを捨てれば肌が白くなる
」『…………』
「聞こえねぇのかブスッ!! テメェら皆殺しだっつってんだよッ!! 黙ってねェで掛かって来いヨラァッ!!」
『…………』
体制を低くし、矛の石突で地面を打つ。
「来ーい、来い、来い!」
地面を破り、禍々しい