第54話
文字数 1,952文字
入洛した
廖振瑞――
その兄弟子から、〝是非引き合わせたい人物がいるので訪ねられよ〟と記された
だが肝心の〝
また、この時期にはもう、尊寶と振瑞との友誼は疎となっていた。
そういうこともあって、はじめ尊寶は、これを手の込んだ悪戯だと勘繰った。
「ふむ。誰か知らぬが、
牘をぽいと投げ捨て、尊寶はふんと鼻を鳴らした。自分を嫌う人間の多いことはよくわかっている。心当たりがありすぎて、いっそどうでもよくなるほどだった。
ところが使いの使奴は額に汗をかきながら「来ていただかねばわたしが叱られます」と狼狽えた。
さて、自分の知る振瑞は、このような礼を欠くことをしない男だったが……。
結局、指示通りに都城の外の小さな
表門を応対の家童の案内でくぐり垂花門の前まで案内されると、果たしてそこには、深衣姿の士が立っていた。それは間違いなく廖
長身といえる尊寶に劣らぬ背丈に涼しい目元という男振りは、如何にも俊才然としている。
そんな振瑞は尊寶の姿をみとめると、正しい礼容の時揖をして言った。
「よく来てくれた、
尊寶が時揖を返すと、親し気な表情となって歩を寄せてきた。
「――先ず、非礼を詫びたい。引き合わせたい
言って、振瑞は真摯な目を尊寶へと向けた。それで尊寶は、
振瑞は、今度は〝回りくどい言い回し〟をせずに言った。
「天官宰輔がおまえに会いたいと云われたので来てもらった」
尊寶の顔が怪訝なものに変じるより先に、振瑞は腕を振って正坊へ入るように勧めている。尊寶は、腹を括って正坊へと足を進めた。
案内された室に、先客は二人いた。
正面――西に座った男が宰輔・
視線を転じた先、北側に座する男を見たとき、その面差しに見覚えのあった尊寶は、危うく声が出そうになった。……座っていたのが
もう少しで〝どういうことか〟と問い質すところを、何捷の目の奥の意を汲むことで何とか飲み込むと、尊寶は南側――客の付くべき座に着いた。最後に振瑞が東の座に着くと蔡才俊が口を開いた。
「よくきてくだされた。……
卓の上の酒杯を勧めつつ、北座に着いている何捷を向いて肯く。何捷が言継いだ。
「――
尊寶はとりあえず拱手をして一礼した。
「
面を上げた尊寶に礼を返した蔡才俊は、自らの杯を掲げて言った。
「まずは一献、献じよう」
一同で酒杯を
「
尊寶は、その蔡才俊の言を緊張の面差しで聴く。この男が太傅・昌公緩の懐刀であることは誰もが識るところである。そして自分は反目する閥の領袖、鷲申君の下に仕える者と目されており、事実そうである。警戒が先に立つ。
その警戒を解くように、蔡才俊は気さくな物言いを通した。
「――…
それで尊寶の
「その
尊寶は返答に窮した。それを謙遜と取ったろうか、蔡才俊は真顔で続けた。
「貴方は〝大道廃 有仁義〟と
〝大道
それは、王命に服さず北伐の軍を解散しなかった原伯の胸懐を、敢えて推しての言葉であった。……原伯ならば、こう