第23話
文字数 2,098文字
……が、この
一つに、法が唯一公正で適切なものと、何をもって言えるのか。
一つに、法の起草時の想定が、世のすべての事象を網羅できるのか。
一つに、法の適用にあたり、
そして最後のひとつに、一度施行された法によって生じた
尊寶が思うに蔡才俊は、
「昌公の巻き返しか。――
蔡才俊の奇才は、ただ法治の功利を説くだけに止まらなかったことである。法治によって国家の仕組みを変えた先に、
そうして
改革派の中心は頃王の意を
このような事態となったことも昌公緩の側から見れば、それなりの理がある。
本来、逢の宮廷では、王淑と昌、二つの公爵国がそれぞれ三公の一角を務めるのが習いである。(※残りの一席は、王族または五富族中の雄者が任命された)
それが、王室に〝王子淵の廃嫡〟が起きた末、ようやく淵の子の
これには五富族の卿士に眉を顰める者は多かったし、むろん昌公もまた、これを
昌公に本当に国の法を改める意志があったかといえば、それは疑問である。が、彼は自分の心さえ
とまれ蔡才俊が現れた逢の宮廷は、改革派と守旧派とに割れた。
改革派は鷲申君の栄華を苦々しく思う卿士に加えて、若い士大夫層の支持を集めており、守旧派は鷲申君に
鷲申君に見出された境丘の学者の多くは、彼の側に同情がある。章弦君の代に見出され直接に知己を持たない洪大慶や蕭尊寶でさえ、国の根幹は人であり仁であると考え客人を招くことを始めた
だが同時に、この数年の鷲申君に増長の影が見えるのもまた事実であった。
ながく三公の地位に在り、また新たに三公の一席に王淑の血筋の者を迎え、さらには官の要職に一族の者や彼の食客の下に学んだ者を配し始めている。
尊寶の目にも、伝え聞く鷲申君の逢の朝議の専横は、
「――…章弦君は、やはり傍観か」
大慶が酒気を帯びた熱い息で、いまひとりの王淑の公子の動静を訊いてきた。尊寶は慎重に言葉を選ぶように説明してやった。
「鷲申君はあのご気性だ。いまはもうご自分の考えが
章弦君もまた、鷲申君同様、王淑の公室に生まれ頃王より封地を授かっている身の上で、逢と王淑に両属している。そしてこの冊封は鷲申君の引き立てであり、鷲申君が桃原に残した食客をそのまま譲り受けたことからも、鷲申君の政治的遺産を引き継いだ身と目されている。
つまり彼は、頃王と鷲申君、双方に恩のある身といえた。
そしてそのうえに〝章弦公主〟の存在がある。章弦公主とは章弦君が養女として迎えている頃王のただ一人の異母妹のことをいう。名を
この年十二歳の少女は、六歳にして章弦君の養子女となって彼の庇護の下にあった。これもやはり鷲申君が主導した政略で、つまりは〝人質〟である。この国では同姓の婚姻は忌避されていたため、このように養子縁組の形で家と家の関係を強化することが姚姓の家ではよく見られた。
これまでのように鷲申君の権勢が盤石で王淑公家が権門勢家の筆頭なのであれば、この縁組は誰にとっても有益であった。が、他ならぬ王家と王淑家の関係に