第11話
文字数 1,636文字
境丘での
さてこの後、酒を飲み始めた
さして広くない邸の門前でしばし待たされると、南宮唐はいったん奥に消え、
「では、
と言うや、いそいそと洪大慶が杯を重ねる『菜香房』に戻って行ったのだった。
何のことはない。南宮唐のいう〝心当たり〟とは高偉瀚のことで、弟子の徐云に、師の邸まで案内して行け、ということであった。
南宮唐を見送った徐云と何捷、それに
高偉瀚の邸までの道すがら、徐云は、何捷との会話を何度か試みている。
何捷が高老師の下で共に学ぶということになれば、それは〝同窓の友〟になるわけで、年の頃の近い徐云にとって、できれば良好な関係を築きたいという想いは自然なことだった。そもそも徐云は他者との軋轢を好まない。
が、何捷という少年は、その見た目の通りに不愛想な少年だった。
まるで〝無駄口は一切開かない〟と、何者かに誓ったふうに、右から左へと徐云の言葉を聞き流している。そうなると徐云も元来、口数の多い方ではないので、明璇を含めた三人は、もう黙って歩くだけとなった。
だから高の邸の前に戻ってきたとき、明璇に一礼しただけで門を潜ろうとする徐云を向いた何捷が、
「おい……」 と口を開いたことに、徐云も明璇も驚きの
何捷は表情を変えることなく続けた。
「…――先のようなこともある。
「あ……。いや、でも君のことを
義務感からそのようなことを応える徐云を遮って、何捷は、紹介状を携えた方とは逆の腕を伸ばしてきた。早く『十論』の
「…………」
徐云は『十論』の編綴簡を何捷に託すと、何とも言えない表情でこちらを向いていた明璇へと視線を遣って、では、と簡氏の邸の方へと誘うふうに先に立つ。
明璇は、繊細さ装うように後に続いたのだったが、その際、何捷に軽く頭を下げて謝意を表した。
何捷は、やはり表情を変えずに一礼すると、高の邸宅の門を潜り中庭へと消えたのだった。
「
思ってもいなかった何捷の計らい(?)に、にこにこと歩みを進める明璇は、すぐ先を行く徐云の背に言った。
立ち止まった徐云が、何が? というふうに、面白くなさそうな表情を明璇へと向ける。……周囲に他人の目や耳がないときには、ふたりは〝
「こんなにか弱い存在をひとりで帰らせようとは、いったいどこの〝
明璇も立ち止まり、半ば責め立てるように、半ばお道化るふうに、徐云の顔に向ける目線を細めて返す。「――
「…………」
幼なじみの〝圧〟に負けて、返す言葉の見つからない徐云が、
「……
と、しぶしぶと言うのを見遣る明璇の
今日こそは〝
だから明璇は、この僥倖で得られた機会を逃すまいと、意気込んだ心のままに訊いたのだった。
「それで