第7話
文字数 1,727文字
紹介状を書いてやろう――、
「だが、その前に先ずは飯だ」
そう言って傍らの
何捷はと言えば、この予期せぬ流れに警戒の
数歩をいった南宮唐は、洪大慶と立ち止まると、何捷を振り見遣って言った。
「何をぼさっと突っ立っておるか。……何も取って食おうなどと思っとりゃせん。先ずはその〝腹を空かせた猫〟のような
昼餉という語を耳にしたとたん、若い何捷の身体は素直に反応し、くぅーっという情けない音を微かに発した。何捷の顔に、はじめて年齢相応の表情――赤面が浮かぶ。
「早く来い」 南宮唐は手招きした。そして、「…――ああ……
いきなり自分に言葉を投げかけた南宮唐に、
下ろした視線のすぐ先、首を巡らせようという明璇の細いうなじが思いの外
そんな徐云がなぜか腹立たしく思えてくる明璇だったが、それでもそういう気持ちを心中に押し隠して、彼女は南宮唐に肯いて返した。そうして南宮唐と洪大慶が
そのときに
南宮唐の通う馴染みの菜館『菜香房』は、境丘門道を最初の坊との辻で北に折れ、しばらく行った処にあった。
店の主は三十路を過ぎた女で、
大路に面した店の割に造りは地味で、一見すると普通の家とも見えるのだが、境丘で学ぶ若い学徒は大方がこの店を知っていた。
いまだ章弦君の目に
そんなこの店には法がある。
たった二つの約束事がそれで、一つが〝門地・身分をひけらかしてはならぬ〟、いま一つが〝ここで見聞きしたことを他所でもらしてはならぬ〟――の二か条である。
それを守れず、他人の論を自らの論旨でなく身分や立場を
そうなればもうその者は、ここ境丘の不文律を守れぬ者として、後ろ指を指される存在となる。
南宮唐が店に入るや「いらっしゃぁい」と黄色い声が迎えた。その声は店の喧騒の中でもよく通り、奥に座る女主の顔を向けさせた。女主が肯くと、黄色い声の小娘は一行の人数を確認し、それなりに混んでいる店内の奥の方の卓へと案内してくれた。
「いつものものを食わせてやってくれ。……それと筆と
南宮唐に用命されると、小娘は燕のように卓と卓の間を小走りに下がっていった。
そうして料理が運ばれてくるまでのしばらくの間に、徐云と並んで隣に卓についた明璇は、向かいに座った洪大慶と何捷、それに斜の席に腰を落ち着けた南宮唐……それぞれの顔を、それとなく観察する。
南宮老師は何捷のことを〝腹を空かせた猫〟のようだと言ったが、たしかにそれはそうだと明璇も思う。そうすると徐云は〝用心深い小鹿〟といったふうで、洪大慶は〝精悍な獅子〟の趣がある、といったところだろうか。