第46話
文字数 1,667文字
祥逸からは、呂原に会うにあたり〝
それには〝
「
何捷としては、
「そうではございません」 同行した祥逸はなんともいえぬ表情で応じた。「……
そう言われ、何捷は、あとはもう何も言わずに、次倩ともども祥逸について呂原の邸に赴いたのだった。
呂原の邸は、実際に目にしてみれば存外に小さなものだった。章弦君の食客にすぎない
現れた家宰は、手入れの行き届いたあごひげの目立つ男であった。話は祥逸から聞かされていたようで、確認のため、ふたりの姓名と生国、それに家系を訊いてきた。
「ほう。『杞』の大夫の子孫であられるか――」
次倩が
すかさず次倩は黄金の小包みをみせた。
「――
すると家宰は
――わかりやすい表情をする男だな。
何捷は内心で長嘆息しつつ、
揖を交わすと、一行は次の間へと通された。
そこで家宰は気持ちよさそうにあごひげを撫ではじめ、目を細めて、ふたりを黙って眺め始めた。
そこからは、無為に
――なぜすぐに取り次がぬ。
何捷がいらいらし始めた。次倩は、最初は例の人好きのする表情を取り繕っていたが、そのうちに、顔の表情はそのままに半眼になって動かなくなった。祥逸だけが、初めから落ち着き払っている。
やがて家宰は、
「さて……」
と呟いて、あごひげをひと撫ですると、
「さきほど主人は髪を洗っておりましてな。客があるときは必ずそういたします。清潔好きなのですよ。もう乾いたころでしょう。そろそろ申し上げてこよう」
と言って立った。
――主従そろって〝清潔好き〟とは笑わせる。
何捷は失笑しそうになった。次倩は肩を震わせた。懸命に笑いを堪えているのであろう。祥逸は微動だにしなかった。
今度はさほど待たされなかった。
「どうぞ」
家宰の声に厳重さが加わった。ふたりは大室に案内された。祥逸は庭先に回っている。そこに財賄を積んで呂原に見せるためである。その財賄は祥逸の店で調達したものだ。
何捷と次倩の前に姿を現した呂原は、初老の男で、その人品は卑しくなかった。体つきはすんなりと細く、皮膚は白く、背は実際には高くはなかったがそれを感じさせぬ居住まいがある。
――なるほど。
何捷と次倩は、それぞれに内心で頷いた。……呂原の髪に、わずかな湿り気も感じはしなかった。
呂原はちらりと庭先を見た。次倩が用意した手土産と称するものが積まれている。
ひとつふたつ頷くと目を戻し、呂原は言った。
「なるほど、あなた様に才覚は御有りらしい。よろしい。近日のうちに
――…
何捷は、感情の現れない呂原の声を聞いたとき――思いの外、手応えはないにもかかわらず――〝賈人から官人に近付いて蔡宰輔まで渡りをつける〟という流次倩の目論見は、どうやら、