第44話
文字数 1,740文字
港邑の入り組んだ
ここで
だが、いまさらどうすることもできない。剣が残ってくれたことで〝
溜息を飲んだ何捷は、前を行く男の背中をあらためて観察した。
男は素衣・素裳・素冠だった。その肩幅は広く、上背もかなりある。……
ふたりは
いきなり、その大柄の背が振り返って、こちらを向いて言った。
「――おまえ、ええ度胸してるなぁ。あの賭博場でイカサマを騒ぎ立てるなんて、ふつうやれへんぞ」
沿海
もっとも、大慶ほどに深みのようなものを感じなかったのも事実だった。――このときの何捷は上手く言葉にすることができなかったが、
そういう印象を得た何捷は、見返したものの、そもそもの関わり合いの
すると目の前の男――
「――いや、礼には及ばんわ。
と、笑って遮った。それで再び怪訝となった何捷に、懐から銭入れを出して〝ほれ〟と放った。それは何捷の銭入れだった。
「ほいで――」 さらに、もう一度懐に手を
引き出して見せた二つ目の銭入れは、何捷のものよりもまだ重そうだった。
「こいつを取り戻すのに、おまえのあの騒ぎが援けになりよった」
言って笑うと、次倩は銭入れを懐に戻した。
「負けがチャラになりよったし、一杯献じよう。いっしょに来ぃや。…――ああ、
語り口に愛嬌があり、何捷のような者にも〝親しみやすい〟のは確かなようだった。
そうして何捷は、許の市中の、菜館を兼ねたような
そこで次倩は、口の重い何捷に辛抱強くあたり、桃原から来たこと、境丘で学んでいたことなどを語らせ、そして
冠礼前の何捷の口から、洛邑に蔡宰輔を訪ね、あわよくばその客人に収まれないだろうか、などという望みを聞くや、次倩は半ば呆れ半ば感じ入ったように目を見開き、それから笑みを浮かべた。
やはり莫迦にされたかと、気分を害したふうの何捷に、次倩はこう持ちかけてきた。
自分は「杞」から来た
見ての通り、大夫の家に生まれた者だが、故あって国を出て諸国を巡っている。じつは侍人をひとり連れていたのだが、彼は病に斃れてしまった。自分の
どうだろう、その侍人に〝成りすまし〟て洛邑に行く、というのは?
――どこまで本当の話だか……。
さすがにこれは〝出来すぎ〟だ、と、警戒せざるを得ない。
だが、何捷は、結局その話に乗った。
どの道、洛邑に入るのに他の手立てがなかったからだ。
話を進めるにあたり、一つだけ〝問題〟があった。その侍人に関する過所の記載が、加冠を終えた成人となっていたことだった。
それについて次倩は、
それでいま白河の船上の何捷は、頭上に素冠を乗せ、〝二十一歳の
すでに季節は春で、年は改まり、頃王の治世は十六年目を迎えていた。