第49話
文字数 1,842文字
そうした中で、天官宰輔・
蔡才俊に率いられる天官府の鋭才たちは、目下の事態に対応しつつも、一歩一歩を踏み固めていくようにして、着実に国体を変えてゆく――。
先ず、この凶作への対応を利用することで守旧派の抵抗を抑え、ついに、
徴税の権利を主張することは納入の義務を課せられるということでもある。天官府はこの
収穫が見込めぬば、徴税の義務を負う諸侯は、自らの蔵を開いて応分の租を負担しなければならないが、諸侯のすべてに十分な五穀の備蓄があるわけではない。そもそもが、ここ数年の凶作である。
加えて租の納入に先立ち、畿内の各関における五穀移送に係る通行料の免除をしている。これなどは畿内の関が王府直轄であるから
これで畿内の小邑を領有する諸侯大夫らは、比較的に余裕のある邑から調達することも
すでに疲弊しきった畿内の諸侯・大夫には、租納入の負担は堪えられるものではなかった。徴税権を失ったとしても納入義務の負担から逃れられることは、多くの諸侯大夫にとって渡りに舟だったのだ。
こうなれば畿内諸侯は禄位以上の収入を得ることが出来なくなり、采地の国情を超えて
そう仕向けたうえで、蔡才俊は、最終的には禄位の世襲の廃止を目論んでいる。
蔡才俊を
いっぽう、守旧派の領袖たる太師・鷲申君は、卿・大夫の爵位・封号の世襲を守ることが精一杯であった。それほどに蔡才俊と彼が見出した士を擁する天官府は、陣容に隙がなかった。
とりわけ鷲申君を
鷲申君にしてみれば、
廖振瑞は昌公方を油断させるために泳がせており、蕭尊寶に至っては相手の動きを知るために送り込んだのだったが……、それにしても〝やりすぎ〟であると、彼ならずとも顔が強張る事態だった。
だが、苛つきながらも鷲申君は天官府の手腕を評価せざるを得なかった。
状況に
王府に権能を集めるのであれば、その実利の源泉たる税制を押さえるか、権威を与信する爵位・封号にまつわる特権を押さえるか、その何れかが有効な策となる。
蔡才俊は、未曽有の天変の中、混乱のない租の運用を建前に徴税の仕組みを押さえた。
次は禄位世襲の廃止であろう。
そうしてその後には、爵位世襲の
――八百諸侯に、
そんなところであろう。
実のところ、鷲申君自身、若き日にはそのような〝変法〟を夢想した。
だが現実には、父公をはじめ、有力諸侯や士大夫の激しい反撥に諦めたのだ。
鷲申君はあらためて思う。
王朝を襲う奇禍さえも利そうというその手腕は見事だ。仮に、自分の若き
答えは〝否〟である。
そして
逢の太師は、若者の〝危険な火遊び〟を許しはしない。